佐賀県と福岡県との県境に聳える背振山系には、背振山、雷山、浮岳など、数多くの名だたる霊山があるものの、それらを一連に廻峰行の実践道場として全体を把握することはこれまでほとんど無かったため、それを目的とし、主に現地調査、関連遺跡・遺物調査を実施した。 現地調査に際しては、GPSを携帯して位置情報を取得、遺跡・遺構の測量調査・縄張り調査等による平面構造、立面構造の把握、地誌・絵図からの地名データの把握などを行うことで、これまで把握されていなかった背振山系の山岳信仰・霊場遺跡の実態を把握することができた。特に二丈岳においては、糸島市立伊都国歴史博物館の協力の下に、「穴観音」と呼ばれる岩屋の上に築かれた未盗掘の経塚を発見し、正確な実測作業を行いながら発掘調査することができ、平安時代後期に岩屋に納経された実態を知ることができた。 本研究の成果については、山岳修験学会、七隈史学会等における学会での発表、九州歴史資料館研究論集、山岳修験等の学術雑誌における論文掲載のほか、糸島市立伊都国歴史博物館にて特別展「国境の山岳信仰-脊振山系の聖地・霊場を巡る-」を開催、あわせて図録の作成、さらにはミニシンポジウム「国境の山岳信仰」を行い、研究者のみならず、一般市民に対しても研究成果の普及を図った。 なお、平成28年度(最終年度)は補足調査として、背振山系のうち、荒川峠~羽金山~獅子舞岳~長野峠間の現地調査、一貴山地区の観音寺跡(観音屋敷)の現地調査を行った。また、井形進氏、小林啓氏の協力の下に、佐賀県神埼市千代田町大字嘉納字丙太田の銅製懸仏の美術工芸的側面からの調査、科学的調査を実施し、最終的に「背振山の山岳信仰の研究-背振山系山岳信仰・霊場遺跡現地調査報告書-」を作成した。この現地調査報告書に本研究における調査・研究内容を詳細に掲載している。
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