本研究は、近代日本における地域の経済発展の論理と構造を、歴史地理学の視点から解明することを目的とした。近代日本においては、国民国家経済のみならず、各地域においても各々の地域資源を活用した独自の論理による経済発展がみられたことを明らかにするため、平成28年度は特に次の課題に取り組んだ。 まず、本研究の課題1「山梨県における葡萄栽培と葡萄酒醸造業の地域史」については、宮光園資料および、高野家文書の撮影・分析を進めている。調査の過程で、当該地域では明治期以降、「共同醸造組合」が興隆したことが明らかになったため、現存する共同醸造組合の数や所在を確認し、聞き取り調査および資料調査の準備を進めている。 課題2「東北における林業と木材加工業の地域史」については、(1)秋田県における旧士族と横手殖林社の展開を明らかにするために、横手殖林社の資料整理および目録作成を進め、平成28年度にほぼ完了することができた。(2)東北地方における地域資源と地域社会を明らかにするために、諸家文書の整理および目録作成を継続し、共著「公務日記にみる近代村の成立過程―秋田藩領荒瀬村肝煎・湊家文書の解題と翻刻―」(『筑波大学農林社会経済研究』第32号、2016年)にまとめた。 課題3「地域の経済発展の論理と構造」を提示するために、近代愛知県の産業地域形成にも調査の範囲を広げ、近代産業および地域変化に関する資料の収集および分析を進めた。その成果の一部を単著「『下肥』利用と『屎尿』処理―近代愛知県の都市化と物質循環の構造転換―」(『農業史研究』第51号、2017年)として発表した。
|