平成27年度は,三重県四日市市の事例については,引き続き同市の多文化共生関連セクションと協力しながら,笹川地区のブラジル人-日本人の関係形成の諸相を明らかにし,その成果の一部を学会誌にて公刊した。地域労働市場については,地元企業による外国人雇用の動向を探るためのヒアリング調査を実施した。長野県飯田市の事例では,前年に実施したアンケート調査の結果をもとに外国人受け入れ意識の分析を行い,「定住」に関する理論的検討も含め,飯田市の大学連携会議発行の機関誌にそれらの成果を公表した。 研究期間全体を通じ,地域の持続的発展を意識した「多文化共生」のあり様を,「地域」に着目して検討することに努めてきた。得られた知見をまとめると,まず,外国人受け入れ意識については,エスニシティが差異化・問題化される際に集合的消費に着目する重要性や,そうした分析視角が既存の共生論・統合論の止揚に対して持ちうる有効性を示した。次に,「多文化共生」を外国人にのみ関わるものとして,あるいは,文化的次元で捉える観点の限界を明らかにし,地域労働市場に焦点を当てつつ日本人・外国人住民がともに地域への「定住」に問題を抱えうる可能性を検討した。さらに,日本人・外国人の両者を包括した地域社会のあり様を考える上で,文化的な位相における集団間差異だけでなく,移動/定住という位相への着目も求められることも明らかにした。 今後の課題として,移動ないしモビリティをめぐる理論的動向を整理し,望ましい「定住」のあり様を,具体的な地域をベースに理論・実証の双方から探っていく必要性が挙げられる。
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