研究課題/領域番号 |
25770312
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
清水 貴夫 総合地球環境学研究所, 研究部, プロジェクト研究員 (10636517)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ストリート・チルドレン / 西アフリカ / 国際研究ネットワーク / イスラーム / 子ども |
研究実績の概要 |
最終年にあたる2015年度は、2013年度、2014年度に行った、ストリート・チルドレンの統計調査の結果をまとめる年にあたる。ブルキナファソ、ワガドゥグ市においては、ストリート・チルドレンの過半数をタリベ(クルアーン学校の生徒)が占めると言われ、本研究では社会問題化される子どもたちに焦点を当てた研究を行った。 本年度の主な業績は、国際ワークショップの企画開催である。当初このワークショップは、調査を行ったワガドゥグ市で行う予定であったが、同地におけるテロ事件の勃発に伴い、急きょ開催地をセネガル共和国サンルイ市の研究機関(LASPAD)に変更した。研究会は、本研究課題による個人研究の公表の機会を予定していたが、ガストンベルジェ大学(サンルイ市)および、学振ナイロビ事務所、総合地球環境学研究所の共催を得て、セネガル、フランス、ブルキナファソ、日本から研究者を招聘し、国際ワークショップの形をとって2016年3月15日に行われた。このワークショップには、西アフリカ、フランス、日本の研究者が参加し、ネットワークが構築されたものと考えている。報告者は研究発表「Les mobilite saisonelle d’enfant de la rue a Ouagadougou, le resultat de recherche statistique」を行ったほか、ワークショップの企画運営を行った。 また、本研究課題に関連する業績は、清水貴夫, 2015,「ストリート・チルドレンから「アフリカ子ども学」をかんがえること」、Child Science Vol.11, pp.56、および、清水貴夫「ブルキナファソにおけるストリート・チルドレンの季節移動に関する一考察-2度の統計調査より-」第52 回日本アフリカ 学会研究大会, 2015年5月23日-24日がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては当初の予定通り、2013年度、2014年度に2度のストリート・チルドレンの統計調査を行い、その分析を行った。その結果、2009年以来行われていなかった「ストリート・チルドレン」の統計結果をまとめ、さらに、言説レベルであった、子どもたちの人数の季節間変動の有意性を明らかにできた。 最終年度である、2015年度には、この研究結果を国際ワークショップの形で国際的に共有できたことは当初の想定を大幅に上回っており、本研究の最大の成果であると考えている。また、さらにこの国際ワークショップでは、西アフリカやフランスの研究者とNGOの実践家の間の交流を生み出すことができ、将来への研究展望を具体化することができた。 しかし、本来調査結果を還元すべきブルキナファソで成果発表する機会を得られなかった。これは、政情の安定を待ち、必ず行わなければならない課題である。また、本研究の成果をいくつかの雑誌、書籍に寄稿したが、その内2つが印刷中であり、ここに報告できていない。また、当初予定していた『アフリカ研究』への投稿予定の原稿が現在執筆途中であり、現在のところ報告できないことも課題である。さらに、タリベの研究を主眼におく予定ではあったが、タリベを含みこむストリート・チルドレン全体に焦点を当てた研究へと変化したことも申し述べておきたい。 以上のように、突発的な政情悪化に伴う変更に対処して、想定以上に大きな成果が上げられた(国際ワークショップ)こと、ペーパーが予定よりも遅れていることをかんがみ、(2)おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題を遂行する中で、大きく3つの課題を提示することができる。 まず、こうした調査は、本来、NGOや関係当局によって行われるべきものであるが、研究者が第三者的視点から行うことも重要であり、こうした研究が一定の期間を経て定期的に行われ、子どものみならず、NGOなど保護活動を行う諸機関を含めて検証することは重要である。報告者自身、5年程度の期間を開け、同様の調査を行っていきたい。 次に、こうした統計調査から、NGOや当局が構造的にタリベ(イスラーム)を排除するまなざしを持つことが分かった。ここでいう構造とは、インタビュアのNGO職員が誰をストリート・チルドレンだと見做すのかというところからわかるもので、すでにNGO職員と共同して作ったアンケート用紙にタリベであることで、自動的にストリート・チルドレンと見做される枠組みが用意されていた。しかし、本研究を遂行する中で明らかなったのは、都市の子どもの問題として以外に、宗教や近代といったより大きな枠組みから子どもたちを概観すべきことである。 第三点目として、本課題で行ったような統計調査は、文化人類学においては、口頭発表や論文中で参照するにとどまるものであるが、本研究で実施した結果、その統計調査の方法論的問題が多く見られた。すなわち、客観的データとしてとらえられてきた数値的データの脆弱性や不確実性が明らかになった。本研究のように、いわゆる社会問題として位置づけられる、ストリートにおける子どもの生は、参与観察法のような彼らの生活に寄り添う調査によって明らかにされるべきものであると考えられるが、実際に頒布される数値の質についても今後深く考察されるものであると考えられる。この課題は文化人類学者だけでは解決できるものではなく、統計学や人口学、また計量社会学などの学際的なアプローチによって明らかにされるものであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年度予算計画の際には、ブルキナファソ、ワガドゥグ市においてワークショップを開催することを企画しており、その際には、ホテルの会議室を使用し、本調査に協力を仰いだNGO職員および、関係省庁の行政官を招聘する予定であった。 しかし、2015年1月16日にワガドゥグ市で発生したAQIM系によるテロ事件のため、場所の変更を余儀なくされ、セネガル、サンルイ市のガストン・ベルジェ大学にてワークショップを開催した。そのため、当初予定していた、会場借上げ費(約80,000円)、資料代(約10,000円)(、NGO職員および行政官への謝金(約100,000円)の支払いの必要がなくなり、さらに、旅程を約2週間短縮したため、日当宿泊分約180,000円および、それにかかる移動費等(約50,000円)の差額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
以上で発生した差額は、再度ブルキナファソ渡航に使用したい。 先述の通り、本来は調査実施地での成果報告を行うべきであるが、今回発生した差額の総額を鑑み、2015年度にセネガルで行われたワークショップの資料をもとに、個別に成果報告を行う予定である。そして、2015年度に予定していたものの、予定変更を余儀なくされた調査に関しても予算の許す限りにおいて実施する予定である。調査内容は、イスラーム教育機関とそこに通う子どもたちへの聞き取り調査である。 本調査は約2週間程度を予定し、係る費用は交通費が約250,000円、滞在費が170,000円と見積もっている。
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