研究課題/領域番号 |
25770313
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
河合 洋尚 国立民族学博物館, 研究戦略センター, 助教 (30626312)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 空間 / エスニシティ / 漢族 / 客家 / ンガイ / 中国 / ベトナム |
研究概要 |
本科研は、特に漢族の一エスニック集団である客家に焦点を当て、中国広西チワン族自治区、雲南省、ベトナムで調査をおこなった。具体的な調査の項目は、主に、①中国からベトナムへの客家の移住、②ベトナムにおける客家の社会文化生活とアイデンティティの所在、③ベトナムにおける漢族(客家)的特色の主張と社会空間の再生産、④ベトナムから中国への帰還と文化的フィードバック、⑤広西チワン族自治区と雲南省における客家的特色の主張と政府の空間政策、の5項目にわたっている。現段階の調査によって明らかになったのは、以下の二点である。 第一に、ベトナムにおける客家の研究は、世界的に非常に限られており、特に現代の民族誌的研究が皆無に近い。それゆえ、ベトナムにおける客家の民族カテゴリー、ルーツ、移動、社会組織、生活文化、アイデンティティについて現地で聞き取り調査をおこなった。その結果、ベトナムでは、客家は、ホア族、ンガイ族など複数の民族に属しており、前者は広東省、後者は広西チワン族自治区をルーツとしている。特に、前者に関しては客家アイデンティティが強く、客家文化の特殊性を強調し、観音閣など客家を体現する空間を形成している。逆に、後者は、ほとんど客家としての自己認識をもたず、さらに中国、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに再移民している。 第二に、中国では、ベトナムに隣接する広西チワン族自治区の防城港市が、最も多くのンガイ族客家を輩出していることが明らかになった。しかし、ここでは政府が客家を利用した空間政策をおこなっていないため、特に中高年層ではンガイを自称し、客家としての自己認識に乏しい。逆に、ベトナムの国境際から少し離れた北海市、玉林市では政府が客家を利用した空間政策を実施しており、客家ではなかった他の漢族までが客家を自認する現象が顕著になっていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本科研の調査を通して、これまでの研究で見えてこなかった多くの部分を明らかにすることができている。例えば、以下の三点はこれまでにない発見である。 (1)ベトナムの客家が複数の民族に分かれており、生活、アイデンティティなどの面で異なった道を歩んでいるということ。 (2)ベトナムの客家は、特に南部のホーチミンで客家的な特色をもつ空間をつくりだそうとしていること。このことは、漢族の下位集団を等閑視しはじめている昨今の華僑・華人研究への再考を促すものである。 (3)中国とベトナムの漢族の移動を検討する際に、さらにアメリカ、カナダ、オーストラリアなどのネットワークが不可欠であることが分かったこと。彼らの少なからずは、ベトナムから第三国に渡って資金を得た後、中国に経済的、文化的影響を与えるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に従い、中国広西チワン族自治区、雲南省、ベトナムでの研究を深める。特に、漢族的特色を政策に取り入れ始めている広西チワン族自治区の北海市と玉林市、雲南省紅河ハニ族自治州における調査を継続する。また、同じく客家的特色を利用して街づくりをおこなった四川省成都市、及び客家を用いた空間利用のモデルとなっている広東省梅州市においても比較調査をおこなう。 他方で、科研申請時の計画にはなかった点として、アメリカ、カナダ、オーストラリアでの短期調査も同時におこなっていく予定でいる。なぜなら、ベトナムの多くの漢族は、1970年代後半の華人排斥運動の動きを受けて、アメリカ、カナダ、オーストラリアに再移住しており、そこから中国と関わるようになっているからである。これらの国家においてベトナム出身客家の実態を把握することにより、彼らがどのように中国と関わっており、時として空間政策やエスニシティの再編に影響しているのかを知ることができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
英語論文の校閲に使う予定であったが、論文の執筆が間に合わなかったため。 科研の内容に適合する英語の論文を執筆し、英語校閲費用に用いる。
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