平成27年度は10月から11月にかけて、エチオピア連邦民主共和国において調査を行った。本調査では、エチオピア北部の地域社会において音楽を担う職能集団の活動を対象に報告者が制作した民族誌映画を被写体や被写体の親族と視聴するなかで、当集団の社会集団としての特質の変容、技能の伝承、さらに他集団に対して映画を通してアピールしたい自集団の理想像について議論を交わすことができた。11月に大英図書館World & Traditional Music部門において、報告者が過去に制作した民族誌映画やフッテージ、約13点をアーカイブした「Itsushi Kawase Collection」の活用に関して調査を行った。民族誌映画のアーカイビングや活用をめぐる課題や今後の展望に関して、関係者と議論を行った。
日本文化人類学会機関誌 『文化人類学』80巻1号の特集「人類学における映像実践の新たな時代に向けて」において、近年の民族誌映画の研究潮流を考察する論文(特集序文)、並びに本研究課題に関する論文、計2本を発表した。以上の2本の論文では、民族誌映画を視聴する側の人々の役割を映像人類学が軽視してきたことを指摘し、民族誌映画の制作と公開をめぐる議論を通して生まれる、研究者と調査対象の人々との関係性の変化、あるいは映画公開によって創出される社会との新たなつながり、について考察した。作品を、被写体や、それを視聴する人々との創発的な営みのプロセスにあると位置づけ、映像実践をともなう人類学研究の可能性について検討した。
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