国家賠償訴訟において保護される利益とはなにかについて検討するために、公害事例・家庭内における虐待事例を中心に検討を行った。 公害事例の中でも、アスベスト被害についての国の責任について検討した。アスベスト被害はアスベストの性質上、アスベスト関連疾病の潜伏期間が長い。アスベストが多く利用された時期の被害が近年明らかとなってきた。そんな中、大阪泉南アスベスト第一陣訴訟、大阪泉南アスベスト第二陣訴訟の最高裁判決が下された。同最高裁判決は規制検眼の不行使についての国の責任を認めるものであった。アスベスト訴訟は全国で多数提起されている。泉南アスベスト訴訟では、局所排気装置の設置義務が問題となったが、全国で多数提起されているアスベスト訴訟は、建設アスベスト訴訟が中心であり、泉南アスベスト訴訟とは性質が異なる。泉南アスベスト国家賠償訴訟最高裁判決の射程を含め、引き続き検討していく予定ある。 国家の規制権限の不行使が問題となりにくい虐待事例については、まず、虐待とはどのような態様であるかについての理解を深めるところから始めた。日本では、虐待についての知識を有している専門家が必ずしも多くなく、行政が虐待問題に対応する機能が十分に発展しているとはいい難い状況にある。また、医学的な研究と法的な研究には隔たりがある点にも問題がある。虐待事例について、国家の規制権限の行使がどの程度可能なのか、権限が適切に行使されなかった場合どのようにその損害を補償するかが課題であることが明らかとなった。
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