本研究は、裁判員制度と弾劾制度という2つの制度の分析を通じて、自由主義と民主主義との相克について探求するものである。研究の最終年度である平成27年度は、前年度に引き続き文献収集を行うとともに、(1)わが国の裁判員制度の討議民主主義的再構成について学会報告を行い、(2)いわゆる裁判員制度合憲判決(最大判平成23年11月16日刑集65巻8号1285頁)を分析し、そして、(3)アメリカ合衆国の弾劾制度の諸問題のうち、論点を1つ取り上げ学会報告を行った。 (1)としては、“The Concept of Democracy in the Legislative Process of the Lay Judge System”と題して、The 4th East Asian Law & Society Conference等で報告を行った。 (2)としては、「裁判員制度の憲法適合性」と題する論文を作成し、最高裁判決に示された国民の司法参加と民主主義との関係や裁判員の職務等の意に反する苦役性(憲法18条後段適合性)などについて検討したが、本研究の期間内には公表までは至らなかった。 (3)としては、「米国弾劾裁判規則11条の憲法適合性」と題する報告を、日本公法学会第70回総会公募報告セッションにおいて行った。わが国の弾劾制度の母法国であるアメリカの制度に関して、弾劾裁判の証拠調手続を上院(全体会議)そのものではなく委員会に委任することについて、その公正性をめぐる学説対立と判例・実務を整理した。 裁判員制度に関しては、国民の司法参加と適正な裁判を実現するための諸原則との両立という形で、また、弾劾制度に関しては、弾劾に関する議会の裁量権と被訴追者の公正な裁判を受ける権利という形で、民主主義と自由主義の両原理が緊張関係にあるということを確認することができた。
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