研究課題/領域番号 |
25780021
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
湊 二郎 立命館大学, 法務研究科, 教授 (00362567)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 不作為訴訟 / 不作為請求権 / 予防的権利保護 / 行政行為 / 法律より下位の法規範 |
研究概要 |
平成25年度は,ドイツにおける行政行為および法律より下位の法規範に対する不作為訴訟について,(ア)訴えの提起が適法とされるのがどのような場合か,(イ)不作為請求が認容されるのはどのような場合かを明らかにすることを目的に研究を行い,次のような結論を得た。 便宜上(イ)から説明すると,ドイツでは行政行為等の高権的行政活動に対する不作為請求権の成立可能性が認められており,その要件は,①高権的行政活動による権利の侵害,②侵害の違法性,③侵害が差し迫っていること(または継続していること)である。侵害行為が法規範である場合には,侵害される権利の存在を否定するなどして,不作為請求権の成立可能性を限定する裁判例もあるが,理論的には,①~③の要件が充足される限り不作為請求権を肯定しなければならないと解される。日本でも,不作為請求権の語を用いるかどうかはともかく,①~③の要件が充足される場合には,本来的には救済が与えられなければならないことを基本として制度の構築・運用を行うべきである。 (ア)に関しては,ドイツの学説・判例は,行政行為や法律より下位の法規範に対する権利保護の方式としては,それらが出された後でその取消し等を求めること(事後的な権利保護)が原則であるという立場に立っている。ただし判例によれば,事後的な権利保護を選択させることが関係者にとって受容できない場合には,予防的な権利保護の必要性があるものとして,不作為訴訟を提起することが許されている。ドイツ法の特色の1つは,原告が受ける損害が重大であることは,不作為訴訟の提起が認められるための必須の要素ではないことである。日本では行政処分の差止訴訟の訴訟要件として「重大な損害を生ずるおそれ」があること,「他に適当な方法」がないことが法定されているが,前者についてはその必要性について再検討の必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度においては,当初計画では,ドイツにおける行政行為および法律より下位の法規範に対する不作為訴訟を研究することを予定していた。これに関して,平成26年2月刊行の立命館法学351号1頁-47頁に論説「ドイツ行政裁判所法における不作為訴訟に関する一考察――行政行為・法規範に対する予防的権利保護」を掲載するとともに,平成26年3月開催の関西行政法研究会(於:大阪学院大学)において,「行政行為・法規範に対する予防的権利保護(ドイツ)」と題する研究発表を行うことができた。その概要は,上記「研究実績の概要」に記載の通りである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度においては,当初計画では,ドイツ法にいう単純高権活動(行政行為や法規範以外の事実上の行為)に対する不作為訴訟について,その適法性および本案勝訴の可能性を検討し,年度内に研究成果を発表することを予定しており,これに従って研究を行う。単純高権活動の予防が求められる場合には,行政行為・法規範の予防が問題になる場合とは異なって,事後的な権利保護を原則とする(予防的な権利保護を例外とする)運用が行われていないようであり,この点を明らかにしたいと考えている。また,単純高権活動のうち,行政機関による警告や意見表明等の情報活動に対する救済のあり方については,日本の行政法学において十分に解明されていない事項であるため,重点的に検討することとしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では,物品費20万円,旅費5千円,その他の経費9万5千円を支出することを予定していた。旅費およびその他の経費については予定よりも多く支出したが,物品費の支出が18万円余にとどまったため,結果的に3千円余の未使用額が生じた。 旅費に関しては,平成25年9月に学内で行った中間報告に研究者4名を招へいし,交通費を支払った結果,その合計額が7千円を超えることになった。その他の経費に関する支出が10万円を超えたのは,データベース(ベックオンライン)利用料が,提供元のベック社による価格改定(値上げ)のために,9万円余となったことが原因である。他方で物品費の支出が想定を下回ったことに関しては,ドイツ連邦行政裁判所公式判例集CD-ROMの購入費用が当初予定していた価格(3万5千円)よりも1万円以上安かった(2万円余)ことが原因である。 平成26年度における直接経費の総額は30万3千円となるが,物品費として23万4千円(ユリスDVD行政法購入費11万4千円,行政訴訟法〔ドイツ〕関係書籍購入費3万円,行政手続法〔ドイツ〕関係書籍購入費3万円,一般行政法〔ドイツ〕関係書籍購入費3万円,行政救済法〔日本〕関係書籍購入費3万円),旅費として1万7千円(研究発表旅費1万円,外部研究者招へい交通費7千円),その他として5万2千円(データベース利用料〔6か月〕4万5千円,文献複写費・郵送料・返送料7千円)を支出する。このうち,物品費に関してユリスDVD行政法の購入が必要となるのは,本学図書館における経費削減の結果,本学図書館のサービスとしてユリス社のオンラインデータベースを利用することができなくなったためである。
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