「ドイツにおける行政活動に対する不作為訴訟の研究」の成果として,平成25年度では,立命館法学351号に「ドイツ行政裁判所法における不作為訴訟に関する一考察――行政行為・法規範に対する予防的権利保護」を掲載し,大阪学院大学で研究報告を行った。平成26年度では,立命館法学356号に「ドイツにおける単純行政活動に対する不作為訴訟」を掲載し,同志社大学で成果報告を行った。 以下は研究成果の概要である。ドイツの行政裁判所法では,行政に不作為を求めるための訴訟形式は法定されていないが,一般的な給付訴訟の一類型としての不作為訴訟が利用されている。不作為訴訟の本案では原告が不作為請求権を有するか否かが審理される。ドイツでは,違法な行政活動による権利侵害の危険がある場合には私人の不作為請求権が成立すると考えられている。他方で,特に行政行為に関しては,行政裁判所法が事後的な権利保護(取消訴訟)を原則としているという理解に基づいて,不作為訴訟が適法とされるためには特別な権利保護の必要性が要求される。それに対して,法的拘束力を欠く行政活動(単純行政活動)が問題になる場合には,事後的な権利保護の仕組みが法定されていないこともあって,不作為訴訟の適法性が容易に認められる傾向がある。 日本の行政法では,違法な行政活動による権利侵害の危険がある場合には私人の不作為請求権が成立するという考え方は一般的ではないが,このこと自体が否定される理由はない。もっとも,特別な訴訟形式(差止訴訟)を法定してこれを用いるべきものとしたり,事後的な権利保護の仕組み(取消訴訟・執行停止)を整備して原則としてこれによるべきものとすることは許されると考えられる。反対に,そのような仕組みが整備されていない場合には,不作為請求権の成立可能性(違法な権利侵害の可能性)がある限り,給付訴訟を用いることが認められるべきである。
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