本研究の最終年度にあたる平成27年度は、WTO「共通利益」概念の明確化とその検証を行い、以下のことを明らかにした。 「共通利益」は広義において複数国に共通する法益を指すが、そこには明らかに意味の異なる二つの概念、すなわち、国家の個別利益には還元できない一般利益(general interest)と、国家の個別利益の総和としての「共有の利益(commonly shared interest)」が含まれている。従来の議論はWTOの実体法と手続法の双方における規律の拡大や実効性の確保、履行を促進するための制度の多様化、条約体制としてのGATTからWTOの構造強化に主眼を置いており、加盟国が多数国間条約体制の下で共通して目指す共同体利益 (community/systemic interest)という意味で用いてきたとみるべきである。 もっとも、あらゆる国際組織が、何らかの国際的利益すなわち加盟国の共通利益を追求する機能を担っており、加盟国はこのような共通利益の実現に協力し、その果実を享受する ことに鑑みれば、「共通利益」は締約国を一つの条体制下に結びつける価値そのものである。よって、ここで論じられている「共通利益」は、WTOに固有の新しく生成した概念ではなく、国際相互依存の拡大と発展により生じた国際的公共事務を処理するために、国民経済利益の確保・拡大に動機づけられた国際行政行為 の一形態であり、WTOはGATTや他の多数国間条約体制に比べ、より成熟したものとなっていると捉えることができる。このような観点はその申立制度や対抗措置制度の特色からも説明することが可能である。 上記内容は国際経済法研究会及び日本国際法学会において研究報告を行い、この報告を基礎として執筆した原稿が『同志社法学』に掲載される予定である。
|