戦争・武力紛争の当事国と非当事国との関係は、どのような内容の国際法により規律されるのか。本研究の目的は、この問いに答えることである。この問題は、かつてこの点を規律していた伝統的中立制度が現代においても妥当するのか、妥当するとしても武力行使禁止原則によって何らかの影響を受けているのかをめぐって論じられている。この問題については、従来、現代国際法において「非交戦状態」(中立の地位に立たず、一方交戦国を援助する態度)が合法か否か、という観点から論じられてきたが、本研究代表者のこれまでの研究成果を踏まえれば、設定すべき問いは、「非交戦状態」の態度を選ぶことには中立の地位を選ぶことと比べて法的にどのような不利益があるのか、また、中立の地位を選ぶことには法的にどのような利益があるのか、という形で定式化されなければならない。伝統的中立制度における「公平義務」は、相互に平等な交戦国の差別扱いを禁ずる義務ではなく、中立の地位を維持するために満たすべき「条件」であり(この「条件」を満たす国は、戦争の外にとどまること、つまり交戦国にさせられないことを「権利」として法的に保障された)、中立の地位を維持するつもりのない国(戦争に巻き込まれ交戦国になっても構わない国)が「公平義務」に反する行為を行うことは自由だったからである。 平成28年度は、前年度までの研究成果を論文にまとめる作業を行った。その内容を簡単にまとめれば次の通りである。戦争の外にとどまることを法的に保障する制度としての中立制度は、武力行使禁止原則によってその意義をかなり減じていることはたしかであるが、特に海上捕獲法との関係ではなお意義を有している。敵船・敵貨と中立船・中立貨とを区別し、後者を前者よりも優遇する実行は現在でも維持されており、前者と後者を区別する基準(船舶や貨物の中立性)は、武力行使禁止原則の中には見いだせないからである。
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