研究実績の概要 |
本研究は、①暫定措置付与の要件、②暫定措置の内容、③措置違反の法的帰結の三局面に考察の視点を定めて、国際裁判所の実行を判例分析という手法によって横断的に比較検討していくものであり、本年度は、暫定措置命令の効力に関して、以下の2点を中心に分析を行った。 まず、法的拘束力の根拠と射程について、ICJにおけるLaGrand事件(2001)、ECHRにおけるMamatkluv 事件(2003, 2005)およびICSID仲裁におけるTokios Tokeles v. Ukriaine事件(Procedural order 1) (2003)で各裁判所が採用した理由付けを精査した。その結果、これら暫定措置の法的拘束力は、その根拠を規定の文言や制度的な必要といった形式的な論理によっていることが確認された。 上記を踏まえて、暫定措置命令不遵守に対する法的な帰結を判例から検討した。その際、国家責任法上の賠償の観点から、金銭賠償と満足とに大別して分析を行った。金銭賠償については、暫定措置命令違反に対する利用可能性や賠償額に対する影響等を検討したが、こうした救済の利用を確認することはできなかった(なお、人権裁判所は満足の一形態としての金銭賠償を行うことはある)。他方、満足については、暫定措置違反の違法確認宣言がなされている事例を各裁判所に共通して確認できた。こうした救済の有用性は、裁判の利用目的によって評価が異なるとはいえ、多辺的義務の違反を間接的に強制する手法と解し得る。 以上から、各種の国際裁判所の共有認識となっている暫定措置の法的拘束は判例上確立しており、その具体的な法的帰結にも一定の共通性があることを確認できた。そして、救済方法の観点からは暫定措置を多辺的義務の間接的な強制手段と位置づけることができるとの結論を得た。
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