研究全体の課題は、国連安保理による授権方式の法的性質を解明である。今年度は、「必要なすべての措置」の授権の法的根拠に主に焦点を当てて研究を進めた。以下の点について研究を実施した。 第1に、授権方式において使用される文言である。加盟国に対し「必要なすべての措置」や、「必要なすべての手段」などを授権する、と安保理決議に規定されるが、それらの法的相違は必ずしも明確ではないと指摘されている。第2に、そもそもこうした文言の中にどのような措置が含まれるのかがはっきりしない。武力行使が含まれるのはこれまでも認められてきたが、授権が人権の制約を伴う個人の拘禁を正当化するかどうかについては争いがある。第3に、これらの論点をふまえ、授権方式の根拠となる国際法の理論または条約規定を検討した。これについては多様な可能性があり、国連の軍事的措置を定めた国連憲章第42条、平和に対する脅威などの認定後の国連安保理の勧告を定めた憲章第39条、黙示的権限論、事後の慣行論などである。さらに、一定の授権は、憲章第42条と国連の非軍事的措置を定めた第41条の中間に位置する、という主張もある。これらの根拠について、前の2つの論点と照らし合わせつつ、詳細な考察を行った。 授権方式は、憲章が予定した国連軍がいまだ存在しない中で実行において形成された軍事的措置の実施形態である。これについて明確な法的根拠を確定することは、国連の平和維持機能を強化する点で重要な意義を有すると考えられる。 なお、研究全体に関連する問題について新たな展開が見られたため、「国連安保理の授権に対する人権法の制約」と題する論文を立命館法学に公表した。本稿では、特に英国で争われたSerdar Mohammed事件などを素材に、授権に基づく加盟国の個人に対する拘禁措置が欧州人権条約に違反する場合、安保理決議がかかる違反を正当化するか否かを論じた。
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