研究最終年度である2015年度には,マルチジョブ就労者の労働時間規制のあり方に関する比較法研究を広く試みた。マルチジョブ就労者の就労形態はさまざまであるが,その多くは,日本では非典型雇用として把握されているものである。この点,日本では非典型雇用をとりまく法制度が大きな転機を迎えているが(労契法,パートタイム労働法,労働者派遣法の大改正等),同様の動きは,オランダやドイツでも共通してみられる。 オランダでは,2015年の法改正で解雇規制の大きな見直しが図られ(WWZ),それにあわせて有期労働法制や派遣法制の整備が進められている。他方,ドイツでは,2000年代初頭に進められた規制緩和の反動が生じており,特に派遣法制における均等待遇のあり方が問題となっている。 このように,マルチジョブ就労者をとりまく基本的な法制度の改正が続くなかで,現時点では,マルチジョブ就労者に関する固有の議論が十分に蓄積されているとは言い難い状況にある。もっとも,オランダとドイツの両国では,EUの労働時間指令をふまえ,いわゆる勤務間インターバル規制を中核とした労働時間規制が展開されており,マルチジョブ就労者についてもこの枠内で保護を図るものとされている点で共通し,ただ,兼職に伴い使用者が労働者の就労実態を把握し得ない問題について,労働者の協力義務を課すなどすることで調整が図られていることが明らかとなった。こうした動きは,日本での今後の立法政策のあり方を検討する上でも十分な示唆があるといえよう。 こうした研究成果については,神戸労働法研究会などで報告したほか,現在,公刊に向けて準備を進めている。なお,本研究の研究成果の一部は,科研費の研究成果公開促進費[課題番号:15HP5119]を受けた書籍(本庄淳志『労働市場における労働者派遣法の現代的役割』(弘文堂,2016年))等においても最新情報を反映することができた。
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