本年度は、雇用形態(パートタイム労働・有期雇用・派遣労働)による不利益取扱いの禁止を取り上げて研究を進めた。外国法の分析として、EU法について、日本法を考えるに当たってどのような示唆が得られるのかという観点から分析し、同種のEU法の規定には、均等待遇・非差別原則といった表題がつけられているものの、例外規定の存在や、国際人権文書への言及がないことなどからすると、人種差別等の差別禁止とは異なるものと把握されているとみられること、その一方で、これらの雇用形態による異なる取扱いの正当化が安易に認められているわけでもないことを論じた。また、日本において2012年以降の法改正によって設けられた、パートタイム労働法8条以下、労働契約法20条、労働者派遣法30条の3等、諸規定の解釈問題を、特に、「不合理性」判断のあり方について、最近の裁判例や学説の展開も踏まえて検討した。さらにこれらの規定の立法化に際して学説が果たした役割について、従前の学説をあらためて整理しなおし、分析を行った。これらの外国法及び日本法の研究成果は、学会講座の論文として公表される予定であり、今後の解釈・立法の基礎的資料を提供できたと考えている。このほか、障害者差別との関係で、障碍者雇用促進法によって要請される使用者側の配慮が、デジタル化の進展によってより広がるのかどうか等について検討し、その成果を、「デジタル化と労働法」をテーマとする国際研究集会において報告した。
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