本研究は、わが国の現行刑法典に存在している累犯加重規定を研究対象として、当該規定の現代的意義を考究するものである。重ねた犯罪を行った者が一定の要件を備えた場合に刑を加重する旨規定する累犯加重の根拠については、これまで内外において活発な議論が行われてきた。その結果、かつて刑法典において累犯加重規定を有していたドイツやスイスにおいては、当該規定は刑法上の大原則である責任主義の原則に反するものとして削除されるに至っている。本研究は、これらの国々との比較法研究を基礎として、わが国の累犯加重規定が存置に耐え得るものであるかについて批判的に検証するという視点から、当該規定が孕む問題点を抉り出すことを目的とする。 現在、わが国において累犯加重について説得的な正当化根拠は見出し難い状況にあるが、責任主義の原則を堅持するならば、累犯加重規定の存在は否定されるべきではあるまいか。本研究は、累犯加重規定が孕む問題性について、責任論と刑罰論の観点から考察するものである。特に、近時当該規定を廃止したスイス刑法との比較法研究を中心に行いつつ、さらに、刑事政策的側面から累犯加重規定の運用の実態、および累犯加重規定がもたらす累犯予防によっての効果如何について実証的に考察することに力点を置く。この点に、本研究の意義と重要性が認められる。 最終年度は、本研究に関して平成25年度に公表した論文(西岡正樹「累犯加重に関する一考察」法政論叢56号[2013年]1~30頁)に対して寄せられた書評(中島弘樹「書評」平成法政研究18巻1号[2013年]145頁以下)で指摘された疑問点について更なる検討を加え、さらに、わが国の盗犯等防止法に存在する常習累犯強窃盗について、比較法的視点から考察した。その研究成果として、西岡正樹「累犯加重と常習犯について(2・完)」法政論叢63・64合併号[2015年]61~89頁を公表した。
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