越境犯罪の範囲は、現在のように人とモノの流れが流動化し、瞬時に国境を越えられるような状況では、国境の意義は相対化しており、何気ない行為が自分の知らない第三国で犯罪行為になりうる、といった一般の市民が巻き込まれる事例も実際に生じている。こうした中で、刑罰が適用される領域とその限界を明確にしておくことは、その基準が客観的に全ての者にとって明らかになることであり、これは、市民の側からすれば、自己の利益を確保し、自由を保障することになる。企業にとっても、経済活動が処罰の対象となるか否かの範囲が明確にされることは、不要なリスクを回避するために大きな意義がある。 そこで、本研究では、越境犯罪に対する刑法の適用範囲の問題を中心的に検討したが、この点、先進的な取り組みを行っているEU圏の議論を参考にしながら、日本刑法の刑罰適用の問題に対する示唆を得た。また、この問題は、手続法、国際法も密接に関連する分野となるため、これらの分野の研究者との交流も視野に入れつつ、研究を進めた。この国際犯罪に関わる問題は、特に進展が著しい領域であることから、文献から得られる情報はもちろんのこと、EU圏の研究者との協力が非常に重要な意義を有するために、国外の共同シンポジウムへの参加(ドイツ、ポーランド等)によって、最新の知見を得るように努めた。また、この問題について業績のあるドイツ・ギーセン大学のDr.Liane Woerner氏を招聘し、研究会を開催することによって密接なコミュニケーションを図りつつ、最新の情報を得られるよう努めた。こうした点は研究成果にも結実している。 こうした研究から、グローバル化に伴う犯罪領域の拡大と、それに対する各国立法の対応について評価し、今後の展望について一定の方向性を示した。
|