研究課題/領域番号 |
25780049
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
松倉 治代 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70637529)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 黙秘権 / 自己負罪拒否特権 / nemo tenetur / 告知 / 被疑者概念 |
研究実績の概要 |
本研究は,憲法38条1項及び刑事訴訟法が保障する黙秘権ないしは自己負罪拒否特権の存在根拠と理論を検討し,憲法的意義を有するこの法原則の実質的・内在的保障の基盤を得ることを目的としている。申請者は,自己負罪拒否特権や黙秘権に関する日本の判例研究を行うと同時に,法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」における議論及びそれに関する先行研究をフォローし,批判的に検討する。 平成25年度に著わした研究成果として,後述判例評釈「公判前整理手続における主張明示義務及び証拠調べ請求義務と憲法38条1項(最一小決平25・3・18)」がある。刑事訴訟法316条の17及び同316条の18によると,被告人側は,公判前整理手続において,証明予定事実その他の主張予定を明示し,証明予定事実について証拠調べ請求を行い,請求証拠を開示しなければならない。この主張明示義務を果たさない場合,やむを得ない事由がないかぎり,証拠調べ請求が制限される。この点につき,拙稿では,被告人側に対する主張明示義務が,憲法38条1項の不利益性に該当するとともに,強要性にも該当する可能性があることを指摘した。 また,「(翻訳)ヘルムート・ザッツガー著 『国際・ヨーロッパ刑法--刑法適用法, ヨーロッパ刑法 ・刑事手続法, 国際刑法 』 (8)(9・完)」では,国際刑法の歴史的展開等に関する翻訳を担当した。 継続中のものとして,後述(11)のように,東京高裁平成22年11月1日判決及びドイツの刑事訴訟法学における先行研究を素材に,日本における被疑者取調べにおける黙秘権告知の意義と被疑者概念の開始時点に関して検討を進めている。また,翻訳については,クラウス・ロクシン著『Pruefe dein Wissen』の翻訳に参加している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は,本計画期間内に,産前・産後休暇(2014年12月16日~2015年4月6日)を取得し,育児休暇(2015年4月7日~2015年9月(予定))を取得する予定である。そのため,2014年度の研究活動及び科研費執行は,妊娠期間中,先行研究の精読は継続できたものの,学会や研究会への出席を見送る等変更が必要となり,2014年12月16日より中断している。これが研究の遅れの原因である。 新たな捜査手法の導入によって,捜査の開始時点がより早期化するとともに,当該手法によって獲得した資料を用いて対象者から自白や供述を獲得することが予想される。そのため,刑訴法198条2項が保障する被疑者に対する黙秘権告知の意義・重要性を明確にする必要性が高いといえる。しかし,この分野の先行研究は少なく,かつ,被疑者に対する黙秘権告知の意義を明らかにするため,被疑者という地位の開始時点に関する研究が豊富なドイツ刑事手続を対象として比較法的検討を丹念に行う必要があるため,充分な時間を要する。現在までに,東京高裁平成22年11月1日判決(参考人としての取調べと黙秘権の保障)を素材に,日本における被疑者取調べにおける黙秘権告知の意義と被疑者概念の開始時点に関して検討した。また,Klaus Rogall, Die Beschuldigtenstellung im Strafverfahren, FS-Wolfgang Frisch; Claus Roxin, Zur Beschuldigteneigenschaft im Strafprozess, FS-Heinz Schoech等を中心に精読し,検討を進めている。得られた知見や成果は,育児休暇後,研究会にて報告し,論文として公表することができるよう整えているところである。
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今後の研究の推進方策 |
①法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」における議論の分析及び先日示された法案の分析を継続して進める。育児休暇後は,できるかぎり各種研究会に出席し議論を通じて検討を深める。 ②研究拠点について,今後は育児との両立をはかるため,所属大学の研究室中心から研究室と自宅の2拠点体制へとシフトする必要性が生じた。研究に必要な書籍や複写資料等を両所に備えることによって,今後の研究を遅滞なく行えるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は,本計画期間内に,産前休暇(2014年12月16日~2015年1月26日),産後休暇(2015年1月27日~2015年4月6日)を取得し,育児休暇(2015年4月7日~2015年9月(予定))を取得する予定である。そのため,2014年度の研究活動及び科研費執行は,妊娠期間中,先行研究の精読は継続できたものの,学会や研究会への出席を見送る等変更が必要となり,2014年12月16日より中断している。
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次年度使用額の使用計画 |
①物品費に関しては,産前・産後・育児休暇期間中に出版ないしは発行されたものを中心に,研究書籍を購入する必要がある。また,上記「今後の推進方策」②を進めるため,必要に応じて,研究資料用ファイル等を購入する。 ②産前・産後・育児休暇による研究の遅れを取り戻すため,至急,図書館にて資料収集及び精読を進める。それに伴い,複写費や他大学からの資料の取り寄せにかかる費用等が増すと予想される。
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