研究課題/領域番号 |
25780049
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
松倉 治代 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70637529)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 黙秘権 / 自己負罪拒否特権 / nemo tenetur / 告知 / 被疑者概念 |
研究実績の概要 |
本研究は,憲法38条1項及び刑事訴訟法が保障する黙秘権ないしは自己負罪拒否特権の存在根拠と理論を憲法的意義を有するこの法原則の実質的・内在的保障の基盤を得ることを目的としている。なお,下記「現在までの進捗状況」で示したように,今年度の研究期間は,平成27年10月1日~平成28年3月31日の期間であった。 平成27年度に著わした研究成果として,東京高裁平成22年11月1日判決(参考人としての取調べと黙秘権の保障)を素材に,日本における被疑者取調べにおける黙秘権告知の意義と被疑者概念の開始時点に関して検討した。ドイツを比較法対象とし,Claus Roxin, Zur Beschuldigteneigenschaft im Strafprozess, FS-Heinz Schoech, S. 823ff.を中心に精読し,検討を進めた。この成果は,拙稿「供述拒絶権の告知時期に関する一考察――ドイツにおける「被疑者」概念をめぐる議論を手がかりに」(浅田和茂先生古稀祝賀論文集(2016年秋刊行予定))を提出した。また,プロジェクトメンバーとして参加している立命館大学R-GIRO法心理・司法臨床センターの企画である,ワードマップ『法心理・司法臨床』のうち,拙稿「ドイツの法心理学 刑事手続における供述の措信性判断における法心理学鑑定の利用」を執筆し,提出した。 翻訳については,クラウス・ロクシン=ハンス・アッヘンバッハ『ドイツ刑事訴訟法演習―君の知識を試そう・第16版』の共同翻訳に参加し,担当箇所の翻訳及び校正を行った(申請者の担当箇所は,Rn. 278-306, 446-459, 第3章5・6,第4章2 前半)。 判例評釈として,拙稿「勾留の必要性の審査方法 最一決平成26年11月17日集刑315号183頁」判例セレクトⅡ(法学教室426号付録)(2016年)39頁を執筆し,公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は,産前及び産後休暇・育児休業を取得したため,今年度の研究期間は,平成27年10月1日~平成28年3月31日となった。また,当該研究期間も,子どもが幼いため,従来の研究時間よりも限られたものとなった。これらは一見ハンディではあるが,申請者は,研究を濃密に行う機会ととらえ,研究を進めた。学部授業を担当しつつ,平成26年度より継続していた研究課題であった黙秘権告知と被疑者概念に関する比較法的考察を,論稿としてまとめることができた。同時に,比較法研究対象であるドイツ刑事訴訟法に関する翻訳や,判例評釈を著わすことができた。特に,判例評釈「勾留の必要性の審査方法」の執筆は,申請者の研究テーマであるnemo tenetur原則との関係で,被疑者の供述態度(黙秘や否認)の評価の在り方について問題意識を持つ契機となり,現在さらに研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
①研究拠点につき,育児との両立のため,引き続き,所属大学の研究室と自宅の2拠点体制をとる。研究に必要な文献や資料等を両所に整えることにより,限られた時間で効果的に研究を進めたい。 ②産後,研究活動再開にあわせて研究会や学会に出席する予定であったが,子ども(現在1歳)の発熱や体調不良もあり,土日に実施される学会や研究会に参加することが非常に困難であることがわかった。平成28年度もこの状況は変わらないと思われる。そこで,学会の動向等は,書籍等でフォローすることとし,当該時間を論文執筆や文献精読にあてることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年1月26日に出産し,2015年9月30日まで研究活動を中断していたため。
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次年度使用額の使用計画 |
産前産後休暇及び育児休業間の遅れを少しでも取り戻せるよう,比較法対象であるドイツ刑事手続におけるnemo tenetur原則に関する文献を収集・精読し,論文を執筆する。
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