本研究では、以下の点を明らかにできた。すなわち、①おとり捜査が犯罪対策の場面でも有効な措置として利用されること、②具体的には、犯罪の検挙のみならず、むしろ犯罪関連情報の事前収集に役立てられること、③その点で、おとり捜査と潜入捜査とは共通する目的を有すること、④電磁的記録媒体に対する処分により処分対象が格段に広がった点、⑤答弁取引による供述促進策は法的な問題があるのみならず、その効果にも過度な期待ができないこと、⑥そのため、対象者の不知のままに行われる情報収集には依然として需要があること、である。 本研究では、おとり捜査におけるおとり、潜入捜査官、連絡員等の「人」を通じた情報収集と、電磁的記録媒体に対する処分、および通信傍受等のその他の情報収集活動とを検討し、さらにこれらの情報収集活動の総体として生じる「総合的監視(独:Gesamtueberwachung)」こそが問題であることを指摘することができた。個別の捜査手法(ないし予防的情報収集活動)それ自体も問題であるが、「総合的監視」こそがまさに現代的問題状況を捉えた概念であることが明らかとなったことで、今年度から開始する課題研究への足掛かりとできた。 また、ドイツの議論状況を参考に、おとり捜査等の捜査手法がテロ等の犯罪対策にも用いられる可能性があることを指摘することができた。昨年度の刑法学会でも、捜査の場面で獲得された情報の他領域での利用の可否について問題が指摘されたところであるが、具体的な使用の状況、法的問題の存否については現在も調査中であり、ドイツを対象とした比較法的検討を継続中である。
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