平成26年度は、国内法によると手続違背ないし不法な手法を用いて国外で不適切に収集された証拠の国内刑事訴訟における取扱いについて比較法的考察を試みた。とりわけ英米法における証拠法上の対応を中心に調査・分析を行った。 違法収集証拠排除法則の展開が注目されてきた合衆国では、連邦最高裁において外国捜査官の不適切な捜査活動に対する排除法則の適用が否定されている。しかし、例外的に証拠が排除されるケースとして、外国捜査官の不適切な活動が「裁判官の良心にショックを与える」程度かという伝統的な例外則が適用される場合、あるいは合衆国捜査官が「合弁事業(joint venture)」を表見するほど関与の度合いが高い場合などが指摘される。カナダにおいても同様に、「カナダの司法に対する信用を失墜させるもので無い限り」、国外で収集された証拠は全て国内裁判で証拠能力を有する。その他のコモン・ロー法域の判例からも、公判において使用するために国外で証拠が獲得されたとき、当該証拠の獲得が国内法に照らし手続に違背している(irregular)場合や、さらには違法である(unlawful)と評価されるような場合であっても、当該証拠の許容性に関して広く許容されるアプローチが採られていることが明らかになる。他方で、例外的排除が検討される場合の重要な観点として、「公正な裁判」に対する侵害の程度について詳細な検討が行われている。 日本の排除法則も抑止という見解が強く、憲法規範としての排除として理解するとしても各国の状況を見る限り、困難であることが示唆される。そこで「公正な裁判」の観点から直截に証拠の許容性を検討すべきと思われるが、平成7年大法廷判決および同年小法廷判決に関連していわゆる「不公正手続証拠排除法則」が実際に意味するところとは異なる。今後、「公正な裁判」の内実を理論的に明らかにしていく必要があるだろう。
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