本年度の研究は、予定してきた研究期間の最終年度にあたることから、①前年度までの研究を継続しつつも、②これまでの研究から浮かび上がってきた問題点を補うための新たな題材を検討し、それぞれについて形にすることで研究全体の成果を公表するという作業を行った。 より具体的には、①フランスおよびイタリアにおける商業・法人登記について、その成り立ちと現在の具体的な制度、具体的な運用実態、市場との関係、さらには公的情報が持つ公益的性格という観点からまとめた(「フランス」(2016年)、「イタリア」(2016年))。フランスとイタリアは形としては別個にまとめられたが、英米さらにはドイツとも異なり、組合(societe、societa)を学識法上のみならず商人実務上の基礎としつつ、その上に法人格を持つという点でイタリアとフランスは共通の基盤を有しつつも、とりわけ19世紀以後に両者の間に生じた差異を重視した。また①は研究全体を通したフランス法人論において理論的前提をなすが、当該前提部分についての一応の成果と位置づけられる。 また、本研究では法人を構成する法的内実をフランス・イタリアに積み上げられてきた法概念との関係で測定するという観点から、前年度までは債権者との関係に着目して成果としてきたが(「法人・資産・会社分割」『会社・金融・法 下巻』(2013年、商事法務))、②法人の歴史的基礎について研究する中で、経済秩序構想といった公法領域を視点に入れた位置づけおよび法人と構成員との関係についての理論的整理とが不可欠であるとの考えに至ったことから、以上の点を現代の世界的に市場とガバナンスの関係が抱えている課題の中で問題として提起し直すという形で、成果としてまとめた(「取締役の説明義務」(2015年))。
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