本研究は,データに基づいた実証分析の民事法学における活用を2つの方向から探究する。第一に,法ルールは,何らかの社会目的を実現するための手段としての性格を持つ。そこで,データに基づいて当該目的の達成の有無を評価すれば,解釈論・立法論に対する客観的な基盤を提供できる。かかる政策評価は,日本ではほぼ皆無であり,必要性・重要性が高い。第二に,裁判実務における実証分析の活用を探究する。具体的には,損害賠償額算定のための新たな視点の提供を試みる。損害賠償額算定は,従来,法学研究でも法と経済学でも不十分だった。本研究は,計量経済学を活用した算定手法の基礎の確立を試みる。 本年度は,最終年度であるため,さまざまな国際学会での研究成果の報告や論文の発表につとめた。まず,論文「証券発行市場での虚偽記載に基づく損害賠償請求訴訟における統計的手法の利用とその限界」において,証券発行市場における損害賠償額の算定について,イベント・スタディを利用した損害賠償額の算定がどこまで可能なのかについて検討を行った。このような検討を行った本論文は,これからの証券訴訟・会社訴訟の実務において,大きな意義を持つと期待できる。 また,医師数に関するデータベースを構築した上で,それに基づいた分析を行ったCriminal Prosecution and Physician Supplyについては,採択率20%程度の非常に競争率の高い国際学会である,Conference on Empirical Legal Studiesにおいて採択され,報告を行うことができた。同学会に日本からの実証研究が採択されることはなかなかない中で,本研究が採択され,報告を行うことができたのは,日本の実証研究の国際的なプレゼンスを高めるために大きな意義があったと考えられる。
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