本研究は、重複保険となっている複数の損害保険契約の間で保険給付の調整が行われる場合の保険金支払請求権相互の関係と約款相互の調整方法について検討し、それによって、保険給付の調整ルールの明確化を図るとともに、保険商品の設計の自由を確保しつつ保険者相互の権利義務関係を合理的に規律できるルールの構築を行うことを目的とする。 平成25年度の成果としては、主にドイツ法・ヨーロッパ法のルールや議論状況を理解することができた。 平成25年度に引き続き、最終年度である平成26年度においては、アメリカ法の法状況や議論状況に関する文献資料を収集し、順次検討を行った。また、9月には、ドイツ法・ヨーロッパ法に関する補充的調査を行うため、ウィーン大学(オーストリア・ウィーン)およびヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学(ドイツ・フランクフルト)を訪問し、研究者との意見交換および文献収集を行った。 主たる成果として、アメリカ法について、重複保険の給付調整条項(other insurance clauses)として、主に、保険金額の比率に応じて損害額を負担するプロラタ条項、他の有効かつ受取可能な保険によって填補され得ない額を負担する超過条項、他の有効かつ受取可能な保険が存在する場合には一切負担しない免責条項の3種類があること、そのうちプロラタ条項が一般的であることが確認できた。重複保険となっていて、各保険契約の給付調整条項が衝突する場合の調整方法について、裁判例は多種多様であり、統一的な説明は困難な状況にあるが、主に文言解釈により一次的に填補すべき保険と二次的な保険を決定するやり方や、条項が矛盾するためすべて適用せずにプロラタで負担を各保険に割り当てるやり方などがあることが判明した。この解決方法や考慮要素は、実践的・機能的側面が強く、日本法の解釈を検討する際に大いに参考になる。
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