本年度においては、研究の最終年度における総括として、不法行為法における効果としての「賠償」概念の具体的考察として、フランス法との比較法研究をする予定であった。 しかし、前年度に引き続いてフランス法の調査を重ねてもなお、日本法との比較対象として有益な資料を見いだした上で「賠償」概念をめぐる理論的考察を発展させることが出来なかったため、フランス法と日本法との比較研究との方向性を推し進めることについては将来の課題とせざるを得なかった。 もっとも、本研究における調査・検討の過程で、比較法という形ではないものの、「賠償」の対象となる「損害」ないしその算定方法に関する我が国の判例法理をめぐって、その再構成に向けて示唆を得られた。すなわち、「賠償」とは、被害者を、不法行為による被害を受けた現実の状態から、「不法行為がなかったならば置かれていたであろう」という想像上の状況に置き直すものであるところ、そのような視点から従来必ずしも説得的な説明を与えられてこなかった最高裁判例における賠償額算定の方法を説明することが可能となるものと考えられる。この成果は、「賠償」論を通じて、「損害」概念をめぐる議論にも影響を持ちうるものであると考えられる。 また、本研究は第一義的には不法行為法の効果としての「賠償」を対象としたものであったが、特殊不法行為において効果論がどのような変容を被るのかは必ずしも明確に議論されていない。そのような問題意識から、特殊不法行為の成立要件に関しても若干の考察を展開した。
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