本研究は,金銭債務の「決済」の意義,要件および効果を明らかにして立法提言することを目的とするものである。現代において,口座振込,クレジットカード,電子マネーなど,市民生活において浸透しつつある金銭債務の支払手段(決済手段)は,民法の起草時には想定されなかった形態に進化しつつある。これらの新しい支払い手段は,複数当事者間での債権関係の連鎖を経て終局的に債権関係を清算するものであり,二者間での一回的行為による債権関係の清算を想定した民法第3編「債権」に規定された「債権の消滅原因」とは異なる問題(法的性質,要件など)を生じさせており,解決策の検討が急務となっている。 本研究では,研究期間の初年度・二年目を通じて,電子的決済手段には,「電子マネー」に限らずより大きな金額を扱う「クレジットカード」決済やインターネットを経由した「預貯金口座振込み」による決済も考慮に入れる必要があることが,特に,消費者保護という観点から必要となることが明らかとなった。そこで,最終年度である三年目には,これまでの研究成果をまとめる研究として,特に,従来,日本において判例・学説の蓄積がある口座振込みについて理論的な検討を行った。口座振込みは,クレジットカードによる支払いや電子マネーによる支払いについて,理論的な比較をするための基礎となるものと考えられるからである。この結果は,論文としてまとめ,公表した(「預貯金口座に対する振込みによる弁済の効果(1)(2)(3・完)――フランスにおける近年の議論を参考にして――」東洋法学59巻1~3号)。この際,EUおよびフランスにおける立法の動向および学説の発展から示唆を得つつ,日本における民法(債権関係)改正法案を検討して,さらなる立法の必要性(または,民法改正法案のさらなる改正の必要性)を指摘した。
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