報告者は、フランスにおける各種契約の一般理論の検討を通じた我が国の非典型契約論の考察とのテーマで研究を行ってきたところ、平成26年度は、各論的な研究として、フランスにおいて役務提供契約一般に相当する請負契約の性質決定、特に売買や寄託といった他の契約との区別に関する議論やこの広範な請負契約の近時における再編の議論を検討する論文を著した。これにより、所有権移転や他人のために行為することといった作用に対応する規律である各種契約の一般理論が見いだされ、そしてこうした中間理論を明らかにしていくことで、過渡的にしろ、あたう限り民法典のルールにより非典型契約を規律する方途が示された。これは中間理論の具体例を示すとともに、非典型契約の規律の新しい一つのあり方を明らかにする意義を有するものと思料する。 また以上に加えて、今後の研究の展開として、現在、引き続き各論的な研究として、賃貸借のような貸借型の契約に見いだされる作用である利用の移転に対応する中間理論を明らかにするため、論文を著しており、近々これを公表する予定である。 そして本研究期間全体を通じて実施した研究により、総論的な事柄として、フランスにおける各種契約の一般理論の考察を通じて、フランス契約法の特質や各種契約の一般理論のあり方、その理念系が明らかにされたうえで、各論的な事柄として、具体的な中間理論の例や非典型契約の規律の新しい在り方が示された。これにより、新種の契約を含む非典型契約に既存の民法典のルールにより対応する方途が明らかにされ、このことは非典型契約の研究にとって少なからぬ意義を有するものと思われる。また一般法と特別法の関係という点で本研究に関連する、パリの国際学会において行った、集団的損害に関する報告は、フランスの研究者に好意的に迎えられ、日本法の国際的発信という点でも意義を有するものであったと考える。
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