近年の世界的な経済危機の発生には、格付機関による格付もその一因であったといわれるが、申請者は、投資者保護の強化のためには、不正確または不完全な格付を行った格付機関に対し、投資家が責任を追及できる法的手段の確立も必要であると考えた。本研究は、どのような要件ならびに法的構成に基づき、格付機関の責任を根拠づけできるのかについて解明することを目的としたものである。本研究の研究実績としては、次の2点をあげることができる。 まず、直接に格付機関の責任に関係するものではないが、関連問題として、「格付機関の格付に対する信頼と金融機関の取締役の責任―ドイツにおける経営判断の原則との関係において」の研究を修了した。ここでは、デュッセルドルフ上級地方裁判所のIKB社事件を基礎に、経営判断に必要な情報入手の要件に関連し、当該取締役のいわゆる証券化商品の取引に係る投資決定の場合、格付を入手しかつそれを無批判に信頼しただけでは不十分な情報に基づく経営判断であることを結論づけた。この論文は、すでに脱稿中であり、今後、公表される予定である。 次に、昨年度から執筆途中であるが、EUの格付機関に対する民事責任の創設の経緯に関して、2013年の第二次変更規則35a条1項の考察を扱った。ここでは「格付機関が、故意もしくは重大な過失により、附則III所定の違反行為を行い、かつこの違反行為が格付に影響を及ぼした場合には、投資家もしくは発行者は、当該格付機関に対し、この違反行為に基づき発生した損害の賠償を請求することができる」旨が規定されたので、2011年の欧州議会提案から2013年の当該格付機関規則の第二次変更規則を対象に、議論の整理を行っている(なお、この研究も、今後、公表される予定である)。
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