研究課題/領域番号 |
25780083
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西井 志織 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (80637520)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 特許権 / クレーム解釈 / 出願経過 |
研究概要 |
2013年度は、我が国及び欧米諸国において、特許発明の保護範囲画定の局面で出願経過がどのように考慮され、そして逆にどのようには考慮されていないのかにつき、歴史的変遷も含めて整理・分析し、さらにそのような扱いの理由を考察した。これにより、我が国において所与のものとされてきた出願経過の位置付けを相対化する視座を得ることができた。この研究の成果の一部を5月の日本工業所有権法学会研究大会において報告し、また、拙稿「特許発明の保護範囲の画定と出願経過(1)-(8・完)」法学協会雑誌130巻6号、7号、8号、9号、10号、11号、12号(以上、2013年)、131巻3号(2014年)という形で公表した。主たる研究対象国であったドイツ・英国は、我が国とは異なり、出願経過の考慮に積極的態度を見せないのであるが、その理由として、クレーム・明細書・図面と出願経過の性質の異同、法的安定性の把握の仕方、信義則・禁反言の適用場面等につき、基本的な考え方に差異が見られることが判明した。 本研究は、最終的には、出願経過の位置付けに関するあるべき規律を探求しようとするものであるところ、このテーマには、保護範囲画定方法全般、保護範囲画定と有効性判断の両局面のクレーム解釈基準の異同、後の侵害訴訟との関係において審査のあり方をいかに考えるか等の諸問題が関連していることが、2013年度の研究により一層明確となった。これらの点にまで目を配った検討が必要であり、次年度以降の課題となる。最近の欧州諸国の裁判例の動向は、出願経過の位置付けについて研究する意義が、世界的に見ても一層高まっていることを示すものと理解され得たため、引き続き諸国の動向に注意して研究を行うこととする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度の研究実施計画は、研究対象国の直近の判例・学説の動向の調査・検討も加え、博士論文の内容を理論的に精緻化し、紀要に公表するというものであった。公表の迅速性を重視した結果、次の課題として次年度以降の検討に回さなければならない問題がいくつもあったのではあるが、とりあえず、上記の方針に従い、現時点までの成果を公表することができたものと考える。また、このテーマに関して日本工業所有権法学会研究大会での研究報告も行い、そこでの議論を論文に生かすこともできた。 他方で、研究報告及び論文の公表に集中したために、関連論点についての情報収集(研究会での意見交換・文献収集等)に時間を割くことができなかったことが、反省点として挙げられる。
|
今後の研究の推進方策 |
授業期間中はまとまった研究をするのは難しいため、文献収集や翻訳、研究会での意見交換を通じて問題意識を深め、長期休暇を利用して成果をまとめる。 学会年報・法学協会雑誌掲載論文への批判等をいただくことができればそれを受けて考察を深め、また、同論文で残された課題としたことについての検討を始める。クレーム解釈・保護範囲画定全般の問題の他、本研究テーマの基層をなしている、各国の審査制度の比較を行う。これらに際しては、研究者のみならず、実務家との意見交換の機会も重視する。 さらに、本研究は欧州を研究対象としていることから、欧州統一特許制度の導入と欧州統一特許裁判所の設立の進捗に目を配り、そこで行われている議論を注視する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
2013年度は、研究成果として、法学協会雑誌にほぼ毎月、70から100ページの論文を連載していたために、論文執筆に大いに時間をとられ、予定していた研究会に出席する(出張する)ことができなかった。また、希望していた物品の購入についても、検討の時間をとれず、次年度に回さざるを得なかった。 関連する問題まで広く検討の対象とする必要があることから、2014年度は、多くの研究会に参加(出張)し、知見を広める。また、研究を円滑に進めるための物品を購入させていただく予定である。
|