2018年度は本研究課題の最終年度であり、研究をまとめるべく、主に日本・英国の判例学説の最新の動向を調査し比較を行った。 日本法に関しては、均等論の適用要件の明確化を図ったマキサカルシトール知財高裁大合議判決(2016年)、同最高裁判決(2017年)の後の下級審判決を調査した。出願経過に関係するのは、均等論の第1要件(非本質的部分)と第5要件(出願手続における意識的除外等の特段の事情の不存在)であるところ、上記2判決の前後でこれらの要件の運用にどのような変化があった又はなかったのかを分析し、成果の一部を公表した(「均等論の現在」ジュリスト1522号(2018)94-95頁)。 英国法に関しては、2017年に下されたActavis v. Eli Lilly最高裁判決が、従来の実務を転換し、均等論を正面から認め、また、一定の場合に出願経過を参照する可能性を示した。そこで、Actavis判決の内容とこれに対する学説の反応、及び、その後の下級審判決の動向を分析した。その結果、Actavis判決により出願経過が参照され得る特定の状況が例示されたものの、それに当てはまるとされる事案は決して多くないと考えられること、同判決がドイツ判例と軌を一にして示唆するように、補正がされた文脈(先行技術回避のためになされたか、それとも開示要件や新規事項追加禁止等の関係でなされたか)が意味を持つであろうこと、同判決は禁反言(estoppel)という形では論じていないこと等から、英国の立場と、日本(や米国)の出願経過禁反言とには依然として開きがあるという認識に至った。同判決は、有効性判断と侵害成否判断のためのクレーム解釈の関係についても議論を生んでおり、この点も日本法との関係で興味深い。以上について研究会(11月の株式会社商事法務 知的財産判例研究会)で報告し、その後、論文にまとめる作業を行っている。
|