研究計画の最終年度にあたる平成27年度には、当初の研究計画に基づく資料調査を実施しながら、これまでの分析結果を取りまとめ、さらなる発展のために着想を広げることに多くの力を注いだ。 初期立憲政友会の選挙実務を担った政治家である伊藤大八に関する研究を今年度も進め、明治36年の府県会議員選挙や翌年の第九回衆議院議員選挙における政友会の選挙戦術を分析した。突然の総裁交代に見舞われた政友会の地方組織に動揺が広がる中、これらの選挙の機会を活用した中央の政友会幹部は、次第に地方組織を統制する態勢を整えていった。政党組織の規模は若干減少したものの、中央から地方への指示が円滑に伝わる仕組みが整備されたことは、これから政友会が政権復帰を果たした後に地方利益論を積極的に展開する重要な前提条件となった。党幹部として台頭する原敬の地盤となる東北地方でもこうした動きは顕著であった。学術論文としてこれらの研究成果を公表し、さらに日露戦後の政党内閣確立過程における選挙戦術へと分析視角を広げることができた。 これらの作業を通じて、近代東北地方における地方利益論の展開を考察するためには、昭和前期に政党が統合力を失う時代にまで分析対象を広げる必要を強く感じるようになり、アメリカ発の世界恐慌のインパクトを加味した政党組織の研究を進める構想を深めた。 また近代日本の政党政治の特質を解明するためには、諸外国の事例との比較が有益であると考え、大正期の日本の政党政治を諸外国と比較して分析した政治学者である吉野作造の言説について、彼の政治史講義録を手がかりに考察した研究成果を公表した。
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