研究課題/領域番号 |
25780087
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 裕一 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 准教授 (50647039)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 官民協働 / 社会管理 / 安全規制 / 技術基準 / 規制システム / 政策プロセス / ネットワーク / 制度設計 |
研究実績の概要 |
今年度の研究は、概ね(1)規制行政の体系的把握、(2)官民の役割と責任に関する分析、(3)教訓導出に向けた準備的考察、の3本柱から成る。 (1)船舶の国際規制の国内実施のほか、昨年度に引き続き、国内の科学技術政策全体を司る(ものとされる)「総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)」の成立過程と運用を、中央省庁等改革に遡って振り返った(この成果は『公共政策学の将来』で発表)。これらの事例はいずれも本研究に言う「規制行政システム」の中に位置付けられるもので、規制に係る政治・行政関係や、政治主導と省庁共同体の関係の理解にも資するものとなった。 (2)規制行政システムで官と民とは活動の自由度(「自在幅」)を分け合っているのだと解釈した上で、その「自在幅」、及び、それと表裏一体の行政責任・行政統制の態様を検討した。その結果、伝統的な意味での行政統制の強化・実質化は認められる一方、様々な国際機関や民間アクターが公共的活動に参画してきていることにより、それらにもある程度の責任を分担して問う向きがあること、さらに、規制の科学的根拠の要求、及び、「消費者主権」や「競争」・「淘汰」といったある種の市場的メカニズムが、新たな行政統制原理として見出された(この成果は行政学会と『北大法学論集』で発表)。 (3)昨年度に引き続き、規制の腐敗とでも言うべき囚虜(corrosive capture)に関する理論研究をレビューし、我が国の規制行政システムを前提とした場合、腐敗のいかなる予防方策が有効であり得るかを検討した。事例として取り上げた医薬品のネット販売規制において、専門性にはある程度の多様性があり、内閣レベルの規制改革会議の役割に期待ができる一方、司法判断や規制の費用対効果分析が、先行研究が言うほどには予防方策たり得ていないことが明らかになった(この成果は政治学会と『年報 公共政策学』で発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、(1)規制行政システムの法制度と政策の調査・分析、(2)規制領域間比較と個々の特徴抽出、(3)行政学理論との接合に加え、(1)~(3)を相互に関連させつつ規制行政システムの政策的課題への対応方策について検討することを計画していた。今年度、(1)に関しては、船舶や医薬品といった個別分野に加え、規制も含む科学技術政策全般を司るCSTIの成り立ちと運用に着目し、官民が協働する規制行政システムの全容解明に向けた作業を進めることができた。もっとも、今年度の事例研究は、これまでに本プロジェクトで取り上げた自動車、建築、電気用品、原子力、船舶等の規制動向のフォロアップにとどまり、それ以外の領域へと視野を広げたり、比較分析したりすることはあまり十分にできなかったので、(2)に関しては来年度の課題としたい。(3)について、これまでにNPG論等との接合を行ってきたが、今年度は、規制に関する政治・行政関係や政治主導と省庁共同体の関係、さらにはcorrosive captureの理論動向をレビューし、規制行政の実態に照らした考察を行った。その結果として、規制行政システムの政策的課題とそれへの対応方策についても検討することとなり、教訓導出の備えにもなった。以上のことから、本研究は、最終年度である来年度に多少の課題を残しつつも、おおむね順調に進展させられたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は来年に最終年度を迎える。来年度も、まずは継続して上記の(1)~(3)の作業に根気強く取り組んでいきたい。その上で、これまで相互に関連付けが十分にできていなかった個々の研究成果を整理の上、相互に関連付け、官民が協働する規制行政システムの体系的研究として取りまとめていきたい。その際、理論と実務の架橋を心掛けつつ、歴史や比較の観点も重視し、より一般性が高く洗練された理論構築をも目指したい。また、これと併行して、より実効的かつ効率的な規制行政システムの制度設計・運用手法を提言・構築するという本研究の究極的な目的をも、遂げていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度末に予定していた研究成果(図書『技術基準と官僚制(仮)』)の出版が諸事情により約2か月間後ろ倒しになったため、それに費やすはずであった分の研究費を来年度に繰り越さざるを得なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究成果(図書『技術基準と官僚制(仮)』)の出版に係る費用に充てる。
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