今年度の研究は、概ね(1)成果図書の出版とフォロアップ、(2)規制行政システムの理論・事例研究、(3) 「多層的規制モデル」への着眼、の3本柱から成る。 (1)研究成果として、図書『技術基準と官僚制:変容する規制空間の中で』を出版した。これへの書評にも応える形で、新たに①ガバナンスとキャプチャの関係、②官僚制理論への拡張可能性、③事務官と技官の境界変容といった諸論点について追加的に検討した(この成果は『北大法学論集』や先端行政学研究会で発表)。この成果は他の官僚制研究に照らしてもある程度の一般化が可能との感触を得ているが、これについては今後さらに説得力のある形で実証していく必要がある。 (2)船舶の国際標準化戦略のほか、昨年度に引き続き、①日本の科学技術政策の推進体制、②北海道における地方創生への取組み、③国と自治体の空き家対策といった「規制行政システム」の事例を研究した。①では科技庁創設(1956年)とCSTI司令塔機能強化(2015年)のプロセスの異同を整理し(この成果は阪大豊中地区研究交流会で発表)、②では道内自治体の調査結果から中央・地方関係の変容を考察し(この成果は『年報 公共政策学』で発表)、③では空き家特措法への対応状況を素材として政官・官民・政府間関係について検討した(この成果は『社会技術研究論文集』で発表)。 (3)4年間に及んだ本研究から導かれたのは、規制機関の多層性が、一定の条件の下で規制の公益性を高めるのではないかという見立てである。今年度はアメリカOMB/OIRAとヨーロッパIABとを比較し、日本版規制監督機関(ROB:Regulatory Oversight Body)のあり方を検討した。その結果、政治的・技術的正当性を有する「多層的規制モデル」が、岩盤化している規制の改革のきっかけをもたらす可能性が示唆された(この成果は日本評価学会で発表)。
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