我が国で二院制が採用されている意義は,参議院に反映される民意を衆議院に反映される民意とは異質のものとすることで,衆議院に対する抑制・均衡・補完の役割を参議院に果たさしめることにあるとされる.参議院がこの期待された役割を果たしているか,「多元的民意の反映」という二院制の理念は実現しているかについて,これまで数多くの論考が発表されてきた.ただ,先行研究では,有権者の立場からこの論点について検討するという視点が抜け落ちてしまっている.そこで本研究課題では,この既存研究の穴を埋めることを試みた.すなわち,二院制の下で国会に民意を多元的に反映させることを肯定的に評価する意識を「多元的民意の反映志向」と定義し,多元的民意の反映志向を持つ有権者がそれを現実のものとすることを意図した投票行動を参院選においてとっているのかについて,2013年参院選の前後に実施したWEBパネル調査のデータを用いて検証した. 「多元的民意の反映志向」には,両院間で人材的側面における構成の相違を生じさせることを通じて実現するとされる「人材的側面」と,参議院における党派間の勢力分布を衆議院におけるそれと違えることで実現するとされる「党派的側面」の2つがあると考えられる.このうち後者は,衆議院では少数派である野党各党に参院選で投票するという行動に結びつくことが想定される.そこで,2013年参院選における政党選択を従属変数,多元的民意の反映志向を独立変数の1つにとった分析を行った.その結果,選挙区選挙・比例代表選挙のいずれにおいても,多元的民意の反映を強く志向する人ほど与党・自民党ではなく野党に投票する傾向があることが明らかとなった.つまり,国会に反映される民意を多元的なものにしようとする意識は,両院間で党派的側面における構成の相違を生じさせることを意図した,参院選での野党各党への投票という行動に結びついているのである.
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