研究課題/領域番号 |
25780096
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
宮杉 浩泰 明治大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (30613450)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | インテリジェンス / 暗号解読 / 外交政策 / 政軍関係 |
研究概要 |
平成25年度の研究成果:平成25年度は、本研究課題「昭和戦前期日本のインテリジェンス活動―対外政策への影響に着目して―」の実施初年度であることを踏まえ、本研究の最重要課題である戦前期日本におけるインテリジェンスの実態解明の一環として、軍部、特に陸軍や外務省において情報活動に参画した軍人や外交官のキャリアパス分析を行った。その結果、情報部門と作戦部門(或いは省部の枢要な部署)双方をバランス良く経験した人物が一定数いたことを抽出した。この研究成果については、公刊論文(「広田弘毅と外務省人脈」『歴史読本』8月号)および研究報告(「昭和期日本陸軍情報部門担当参謀のキャリアパス分析―作戦部門との対比を通じて」情報史研究会2013年12月例会)として発表した。 また、昭和戦前期日本陸軍の最大の仮想敵国であったソ連に対する情報活動について分析し、張鼓峰事件等の事実上の日ソ国境紛争や、独ソ戦勃発以後の時期を事例とした情報活動の実態を明らかにした。更に、陸軍だけでなく海軍が取り組んでいた対ソ通信情報活動についても言及した。なお、この研究成果についても、公刊論文(「昭和戦前期日本軍の対ソ情報活動」『軍事史学』第49巻1号)および研究報告(「独ソ開戦以後の日本の対ソ情報活動と戦中期対ソ認識」軍事史学会関西支部第98回例会)として発表している。 併せて、戦中期の駐スウェーデン陸軍武官小野寺信の情報活動について扱い、専門家だけでなく一般にも反響のあった著作(岡部伸『消えたヤルタ密約緊急電』)に対する書評も執筆し(『戦略研究』14号)、太平洋戦争中の日本の欧州での情報活動についても再検討した。 研究成果の意義・重要性:本研究課題は、日本政治外交史のみならず、国際関係論などの諸分野に対しても、大きな波及効果が期待できるが、平成25年度に実施した研究を通じて、ある程度の知見の提供を達成できたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、本研究の最重要課題である昭和戦前期日本におけるインテリジェンスの実態解明の一環として、陸軍において情報活動に参画した人物のキャリアパス分析を行った。その結果、情報部門と作戦部門双方をバランス良く経験した人物が一定数いたことを確認した(河辺虎四郎、武藤章等)。しかし、そのような人的配置が行われたにもかかわらず、同時期の陸軍の情報活動が、情報の収集・分析というよりは秘密工作に傾斜したことを明示した。また、昭和戦前期日本陸軍の最大の仮想敵国であったソ連に対する情報活動について分析し、張鼓峰事件等の事実上の日ソ国境紛争での事例を扱った。また、戦中期に日本が対ソ和平工作にのめり込んだ要因として、従来指摘されてこなかった、ソ連が日本に流した欺瞞情報が影響した可能性も提示した。 併せて、戦中期の駐スウェーデン陸軍武官小野寺信の情報活動を扱い、研究者だけでなく一般にも反響をよんだ著作(岡部伸『消えたヤルタ密約緊急電』)に対する書評も執筆したが、これは単なる書評というより書評論文としての性格を持たせたものであり、瀬島龍三の影響力などにも言及した。 これらの研究成果の一部については、既に公刊論文などとして公開しているが、これらの調査を実施したことにより、本研究課題を実施する為に必要な前提条件を整備することが可能となった。平成26年度以降も引き続き調査研究に取り組み、学術論文の刊行や研究報告の実施等を通じて、公開することを予定している。また、本研究課題の最も基礎的かつ不可欠な作業である公文書館・史料館などへの史資料の調査についても、断続的に実施している。 以上の点を総合すると、本研究課題は交付申請書提出段階の研究計画と多少の変更はあるものの、おおむね順調に進展していると思料する。なお、平成26年度は、前年度の研究成果を踏まえ、より一層強力に推進することを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度以降は、前年度の研究成果と課題を踏まえ、前年度同様、下記調査を実施する。1、(防衛省防衛研究所戦史研究センターでの史料の分析)本作業においては、対ソ情報の専門家達が執筆した手記といった本センターが所蔵している軍部によるインテリジェンス関連の文書の分析を行い、インテリジェンス、特に通信情報に対する実務担当者の認識を明らかにする。2、(国立国会図書館憲政資料室での個人文書の分析)本作業においては、陸軍で対ソ情報活動を担った島内志剛の個人文書が平成26年2月に公開されたことを踏まえ、島内をはじめとする関係者の個人文書を分析し、実務担当者がインテリジェンスと政策立案の相関関係について、どの様な認識を抱いていたのかを明らかにする。3、(外務省外交史料館での公文書の分析)本作業においては、特に日中戦争期に焦点をあて、外務本省と在外公館との電信を分析し、外務省がインテリジェンスをどのように扱っていたのかを明らかにする。 また、併せて、下記調査を新たに実施し、本研究課題の目的達成を目指す。4、(米国国立公文書館での公文書の分析)本作業においては、国家安全保障局(NSA)が旧蔵していた通信情報関連史料およびFBI関係の史料を内包している司法省関連史料を中心に分析を行い、日本に対する情報活動の実態を明らかにする。5、(英国国立公文書館での公文書の分析)本作業においては、英国公文書館が所蔵しているインテリジェンス関係の史料を分析し、英国が日本のインテリジェンスに対して、どの様な認識を抱いていたのかを明らかにする。 なお、平成26年度は上記調査を中心に実施することを予定しているが、必要に応じて、研究協力者及び同分野の研究者と最新の研究動向を把握するためのミーティングを開催するとともに、学会などでの研究報告や論文執筆などを通じて、積極的に研究成果を公開することを予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、前記(研究実績の概要)の通りの調査研究を実施したが、本研究課題に関連する国内での史資料の収集を優先させた結果、申請段階で予定していた研究協力者や同分野の研究者との、諸外国での研究動向を把握するためのミーティングや、インテリジェンス研究が盛んな海外で開催される研究会への参加およびインテリジェンス実務者との意見交換を実施しなかったため、次年度使用額が生じた。しかし、他の作業は当初の想定以上に進捗しており、全般的には本研究課題は順調に遂行されていると考える。 平成26年度以降については、上述の研究の推進方策を踏まえ、引き続き、交付申請書に従った研究活動を実施するとともに、作業の進捗状況を把握しまたその方向性を検討するために、研究代表者や研究協力者、さらにはデータベース構築を手伝う大学院生によるミーティングを隔月で開催する。 上記ミーティングや意見交換を実施するのみならず、他の調査活動(海外での史料調査も含めて)や研究成果の発表などを積極的に実施し、申請段階での研究計画を達成しつつ、かつ本研究課題の目的を達成するよう精力的に調査研究を遂行したいと考えている。加えて、インテリジェンスに精通した研究者や実務担当者へのヒアリングも実施し、多方面からの意見を収集する。そして、本研究課題の最終的な研究成果を提示すべく、仮説の提示および検証を行い、インテリジェンスの実体解明を目指す。
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