本研究は、第一院に匹敵するほど大きな権限を憲法によって与えられた第二院をもつ「強い二院制」の議会制民主主義諸国を対象に、分割議会(いわゆる「ねじれ国会」)が政権運営に与える影響を分析する。権力分立による抑制と均衡が重視され大統領制とは異なり、議会制(議院内閣制)は、立法府と執政府の権力融合に特徴付けられる制度である。議会の多数派によって支持される内閣は、立法においても主導権を握る。したがって、議会自身が執政府と独立した役割を果たすことは期待されていない。しかし、第一院と第二院の支配政党が異なる分割議会では、議会が内閣と意見を一致させられないことも考えられる。そのような状況下で議会での議会の役割を分析することが、本研究の目的である。
昨年度までの研究で、分割議会が立法を量的に制限することが分かった。今年度の研究では、分割議会が与える影響は量的側面にとどまらず、質的な変化をももたらすことが明らかになった。まず、野党が第二院を支配する分割議会では、成立法案に占める長い(文字数が多い)法案の割合が大きくなることが確認された。分割議会で与党が法案を可決するためには野党の協力が不可欠であるが、法案が長くなるということは、分割議会では野党の意見をも取り込んだより広範な意見を反映した法案が生み出されていると考えられる。その一方で、第二院で与党も野党も多数は形成できない状況では、成立法案は短くなることが分かった。特定の党派が第二院を支配しないとき、与党にとって多数派形成策はいくつもある。争点ごとに異なるパートナーを選ぶという部分連合形成戦略の結果、法案が細分化され、短い法案が成立しやすくなっていると考えられる。最後に、分割議会で成立する法律は、特定の分野に集中しがちである。分割議会では、与野党の合意が得られる分野でしか立法が進まないということである。分割議会は立法過程に重要な制約を与えている。
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