本研究は、人身売買対策をめぐるネットワーク形成とその過程における国際機構、国家、市民社会の関係を分析対象としている。そこでは、EUやASEANといった地域機構がグローバル規範を地域に普及・内面化するプロセスの中でどのよな役割を果たすのかについて、人身売買を事例として議論するものである。さらに「人間の安全保障」をめぐるグローバル規範の普及プロセスにおける、いわゆる人権ガヴァナンスの在り方を探ることを目指すものである。 これまで研究対象の一つである東南アジアのなかでも、とくに大メコン川流域における人身売買対策をめぐって、国際機構や地域機構と市民社会との連携・ネットワークについて言及してきたが、26年度および当該研究期間全体を通して、ネットワーク形成の現状や抱える問題点について、議論を展開することができた。深刻な人身売買問題を抱える同地域では、国際機構より身近な地域機構であるASEANが規範普及プロセスにまだあまりアクセスできていない状況がある。それを補うように国連等の国際機構が同地域で反人身売買の規範普及やネットワーク形成を試みるが、それも円滑に進んでいるとは言い難い。当該地域の文化や慣習に配慮した規範普及の在り方を今後より詳細に探求していく必要があると考えられる。 26年度は、25年度に引き続き、人身売買を活発に研究している米国スタンフォード大学で引き続き客員研究員として研究する機会に恵まれたため、そこでの同研究者等との研究交流および市民社会とのネットワーク形成などを含め、多面的に研究を深めることができた。また、米国ニューオーリンズで開催された国際関係学会(ISA)での研究報告および日本国連学会学会誌『国連研究』において本研究の成果を発表することができた。
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