平成28年7月に時間選好を測る実験においてアイトラッキングを使い、選択に影響を与える要素とその影響力を分析した。時間選好は、将来と現在とを天秤にかけるような選択において人の意思決定を形作るものであり、現在バイアスという非合理的な時間選好を持つ人は、現在の自分の厚生を歪んだ形で重要視しながら将来を軽視してしまうため、過少貯蓄や肥満・依存症に悩むことになる。しかしながら、現在と将来の時間差および、現在と将来の厚生水準といった諸要素のうち、なにを歪んだ形で重視(軽視)しているのかは全くわかっていない。また、経済学の学問的特徴も、そうした意思決定者の「注意」よりも「選択結果」に着目する傾向があり、分析はすすんでいなかった。そこで、研究代表者は、眼球運動が意思決定における注意と相関があることに着目し、時間選好を計測する課題においてアイトラッキングを現在バイアス原因の究明に利用した。実験結果が示唆するのは、人は待たされる期間の長さを勘案するのではなく、現在と将来の厚生水準の差が待つに値するものかどうかを見比べて意思決定していることである。このことは、時間選好がこれまで考えられてきたような割引関数で表せられるというよりも、追加的に待たされること自体に、その長さとは相関しない固定的費用があるという見方を支持している。 なお、眼球運動を顕示された選好の一部とみなす意思決定モデルの構築を目指したが、シミュレーションの結果、アイトラッキングの誤差が大きく、モデルの同定が困難であることがわかった。この結果もあわせて研究論文として査読誌への投稿に向けて最終的な準備中である。 これらの結果の一部を、平成28年3月に工学院大学で開かれたInternational Symposium on Affective Science and Engineeringの招待講演の際に研究代表者が報告した。
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