研究課題/領域番号 |
25780145
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
森 直人 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 准教授 (20467856)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒューム / 経済思想 / 情念 / 利益 / 共感 / コンヴェンション / 18世紀英国 / イングランド史 |
研究概要 |
本研究の目的は、18世紀英国の哲学者デイヴィッド・ヒュームの思想のうち、「コンヴェンション」の概念について、「共感」の原理に着目した新たな解釈を引き出すことにある。平成25年度は、第一に共感に基づくコンヴェンション解釈の理論的構築、第二にこの解釈の知的文脈の検討を行う予定であった。 本年度の研究の概要は次の通りである。まずコンヴェンションを自己利益の自己抑制と捉える多数の研究と、コンヴェンションにおけるコミュニケーションの重要性を指摘する少数の研究とを対比的に検討し、後者の方向性に基づき、ヒュームが非常に重視する共感原理がコンヴェンションの形成にも作用しているという理論的な解釈を構築した。これについては『経済学論究』(関西学院大学)にて公表している。 次にこの解釈に関わる知的文脈に関して、先行研究に基づき、エピクロス派の思想伝統とヒュームのコンヴェンション概念との位置関係を考察した。しかしこの論点については、利益、共感、コンヴェンション等の重要概念の知的文脈の検討等、幾つかの課題が残されることともなった。他方で本年度は、予定を一部変更し、次年度以降に予定していた共感に基づくコンヴェンション解釈を踏まえた『イングランド史』の精読と、これに関連する一次・二次資料の収集を大幅に進めることができた。 本研究のこれまでの成果は、仮説的解釈にとどまるものの、自己利益の自己抑制という標準的なコンヴェンション解釈に対して、ヒューム哲学における共感原理の重要性に鑑み、一石を投じる解釈を構築した点にある。この点は、利己心の作用を中心に社会の法則性を追求する後の経済学に対して、その先駆者の一人ともされるヒュームの人間学の幅広いポテンシャルを通じ、学説史上の問い直しの端緒を提供する試みとして、一定の意義を持つものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の達成度は、交付申請書記載の研究目的および研究計画に照らして考える限り、おおむね順調に進行しているものと評価できる。 本研究では、その研究目的を、以下の三つのステップにより達成する計画である。すなわち、第一に、共感に基づくコンヴェンション解釈の理論的構築と一定の知的文脈の検討、第二に、この解釈を軸としたヒュームの道徳論・政治論・経済論および特に『イングランド史』の読解と、それによるこの解釈の可能性と妥当性の検証、そして第三に、同時代の歴史叙述との比較を通じた『イングランド史』におけるコンヴェンション概念の意義の析出である。 本年度は、このうち、第一のステップにおける理論的コンヴェンション解釈の構築を終え、さらにその知的文脈についても一定の検討を終えた。ただし後者の作業については、未だ未解決の課題が残されており、この課題については若干の作業の遅れが生じている。しかし本年度は、同時に平成26年度に予定していた第二のステップ、特に『イングランド史』の精読と、それを通じた上の理論的解釈の検討を大幅に進めている。なお、この研究順序の入れ替えは、英国での研究交流の中で得られた助言(『イングランド史』を含めたヒュームの諸テクストに基づく仮説的解釈をまず構築し、その後に知的文脈の検討に入った方が望ましい、との助言)に基づいている。 以上のように、本年度に予定していた作業には若干の遅れが見られるものの、次年度に予定していた作業を大きく進めることが出来たため、全体として見れば、本研究は順調な達成度において進行しているものと評価することが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、基本的に交付申請書記載の計画のうち、第二・第三のステップに従って研究を進めることを予定している。すなわち、ヒュームの道徳・政治・経済論および『イングランド史』の読解を通じた、上の理論的解釈の可能性と妥当性の検証、および『イングランド史』と関連資料の検討によるコンヴェンション概念の意義と役割についての考察である。 より具体的な推進方策としては、第一に、ヒュームの諸テクスト、特に『イングランド史』の包括的な精読により、上の検証作業を進める。第二に、英国エディンバラ大学図書館、各種データベース、および必要であれば国立スコットランド図書館を活用し、昨年度実行できなかった利益と共感とコンヴェンションの知的文脈について、資料の収集と検討を行う。第三に、『イングランド史』に関連する歴史叙述についても同様の資料収集と検討を行う。さらに第四に、スコットランドの複数の大学の研究者との間で、本研究に関する研究交流を予定している。 また併せて、今年度までに行った『イングランド史』の検討から、本研究課題と関わりつつも、必ずしもそこに還元されえない複数の論点――具体的には、『イングランド史』における政治的自由の「発展」過程の再検討、世界君主政と勢力均衡をめぐるヒュームの認識、為政者に求められる政治的な力量についての理解のありかた等――が導出されている。本研究課題の遂行に支障をきたさない範囲で、これらの論点についても考察を重ねる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度において、研究に必要な資料等の購入、出張旅費等により計画的な執行を行ってきた。しかし資料購入について、一方では本務校における基盤的研究費により必要な資料の購入をある程度進めることができたこと、他方では本年度後半から年度末にかけての長期の出張により経費の執行に通常以上の時間がかかる状況となったことに鑑み、資料の購入に充てる予定だった経費のうち一定額について、相対的に重要でない資料を経費執行期限に追われて購入するよりも、次年度にあらためて資料購入の計画を立てて執行した方が効果的な経費執行が可能になるものと判断した。 本年度残額については、次年度に予定していた研究資料の購入の計画に組み込み、その計画の一環として使用を進める計画である。具体的には、交付申請書に記載の研究目的および購入予定の図書について、現在の学界等の研究状況等に鑑み、重要性が高いと思われる資料を新たにリスト化し、その重要度に基づいて購入を進めて行くことを計画している。
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