本研究の目的は、18世紀の哲学者ヒュームの「コンヴェンション」概念について「共感」に着目した新たな解釈を試み、特にその解釈を彼の『イングランド史』の読解を通じて展開することにある。最終年度である平成27年度には、当初の理論的解釈を発展的に再構築し、その解釈をヒュームの歴史叙述においてさらに詳細に展開した。 具体的には、共感とコンヴェンションを直接的に関係付ける当初の解釈から、両者を、人間の2つの異なる社会的本性、それも時に社会に破壊的な作用も及ぼしうる本性として再構成した。そしてこの両義性が、ヒュームの歴史叙述における果てしない逆説へと展開するという解釈枠組みを得た。これにより、当初から解明を目指していた「コンヴェンション自体の偏りと解体の事例」について、より深い解釈が可能となった。 この全体的な枠組みと、それが現代に対してもつ意義を探求するのは今後の課題である。また新たな展望が得られた反面、当初計画していた『イングランド史』と関連する歴史叙述(たとえばラパン、カートらのイングランド史叙述、ブキャナンのスコットランド史叙述など)との比較という課題については、現状では着手段階にあり、この点に関しては当初の計画を十分に進行させることはできなかった。 しかし本年度は、上の新たに得られた枠組みのいくつかの構成部分について研究発表を行い、それを通じて国内外の研究者と交流することもできた。具体的には、コンヴェンションと党派をめぐる国際ヒューム学会での発表、『イングランド史』における文明観に関するスコットランド18世紀学会(国際18世紀学会の一部として開催)での発表、そして『イングランド史』の叙述における三王国の構図についての日本イギリス哲学会大会での発表である。これら3つの発表については、上の再構築された理論的解釈と併せて、可能な限り速やかに論文として公刊することを目指している。
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