研究課題/領域番号 |
25780146
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
平方 裕久 九州産業大学, 経済学部, 講師 (90553470)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 福祉国家 / イギリス / キャメロン政権 / 大きな社会 / 社会的企業 |
研究実績の概要 |
本年度は、イギリス福祉国家の再編を歴史的に捉えるために、キャメロン連立政権の「大きな社会」構想を検討した。 「大きな社会」では、デヴィッド・キャメロンと保守党の社会政策のアジェンダが特徴的に示された。同構想は、地域分権を進め、地域(ローカル)住民のイニシアチブによって、地域に必要なサービスを実現しようとするものである。つまり、画一的な制度では十分に満たせないニーズを、営利企業や社会的企業を含めた多様な提供者によって満たそうというのである。従来の集権的な制度では個別化し細分化されたニーズに対応できないばかりか、公共部門の拡大をともなってきたことによって社会の連帯が損なわれてきた、と考えたからである。だからこそ、権限の付与と同時に、地域社会における住民の責任が強調されることになった。 同構想を先行する改革と対照すると、福祉国家の再編の重層的な展開を看取することができる。1990年代の改革は、1980年代からの市場化・民営化を手段とするだけでなく、業績管理を通して既存のサービスの効率性向上を主眼としてきた。つまり、競争を重視しつつも市場だけでは提供されないサービスがあり、それは「消費者の満足度」を高めることによって解決されるべきだと考えられていた。だが、それだけでは十分ではない。むしろ「大きな社会」では、供給側の効率性向上だけでなく、変化する新規の需要を住民の自発的活動を通して取り込み、それらへの財源提供を通して社会的企業家や営利企業による活動を促進しようとした。つまりそれらは持続可能性を持つ事業の開拓と捉えることができ、一種の経済政策としての側面も持っていたのである。 こうしてみると福祉国家の再編は、競争を通した効率性の追求だけではなく、公共サービスの質的向上を高めるための業績管理、そして分権化による多様なサービスの実現と、累積的に関連していることが解明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度、所属機関を移動したこともあり、新しい環境のなかで当初計画したペースで仕事を進めることが難しかった。とりわけ、研究成果の論文としての公表が遅れており、次年度前半において完成・投稿まで繋げる。また、研究計画書に記したイギリスにおけるガバナンス論については、イギリスにおける資料収集を進めており、成果の公表につなげるように引き続き努力する。 2年間の研究では、全体について、1980年代に至る思想史研究、2000年代における政策研究と進められている。次年度の研究の大きなテーマである学説的研究(社会政策論研究)では、これまでの資料収集によって必要な資料がそろいつつあり、またイギリス人研究者(Dr Peter Slowman, Oxford University)からの助言を受けることによってさらに効率的な仕事を進めることを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、達成度の項目で記したように、学説的研究を中心に重点的にすすめ、また個別的に進められた研究を有機的に統合し、研究全体の総括も行う。 学説的研究は、LSE研究者であるJulian Le Grand, Nichoras Barr, Howerd Glennersterの3人に焦点を当てながら、1990年代の市場化・競争化と福祉国家・公共部門・公共サービスのあり方をどのように論じたのか、そのエッセンスを明らかにする。 研究全体の総括は、上述のPeter Slowmanだけでなく、イギリス現代史のProf Roger Middleton, University of Bristolからの研究助言を受けることにしている。政策論を中心に本年度は研究を進めてきたが、それらの基底にある思想的な要素に焦点をあてることが次年度の主要なテーマとなる。
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