研究課題/領域番号 |
25780151
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥井 亮 京都大学, 経済研究所, 准教授 (20563480)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | パネルデータ / 動学パネル / 個人の異質性 / 自己共分散 / 二重漸近理論 / 経験過程理論 / ジャックナイフ |
研究概要 |
今年度は自己共分散の分布の推定法の開発と、その統計学的性質の解明を行った。また分布の性質を表す平均や分散、分位点といった数量の推定法の開発を行った。 自己共分散分布の推定量としては、まず個人ごとの自己共分散を推定し、それらの自己共分散推定量の経験分布を考えた。経験過程の理論を使用し、この分布の推定量の漸近的性質を解明した。しかし、分布推定量の漸近分布については、時系列の長さのほうが、横断面の大きさよりも、大きくないとバイアスが発生することが判明した。さらにこのバイアスは修正が難しいことがわかった。 一方、分布の性質を示す平均や分散などの数量の推定を、分布推定量をもとに行ったところ、漸近的なバイアスのオーダーは小さくなることが判明した。さらに、これらの推定量のバイアスは、修正可能であることも判明した。なお、申請書の段階では、バイアスは、個人の異質性から発生するもののみを考慮していたが、推定する数量の非線形性から来るものも存在することが判明した。バイアスの修正法をジャックナイフ法を応用することで、開発した。 さらにモンテカルロシミュレーションを行い、開発した推定量が、現実の所得パネルに似せた動学をもつデータの下で、適切に機能することを確認した。 これらの研究成果を年度の終わりごろには、ある程度まとめることができた。そして、年度の終わりにかけて、計量経済学の研究集会と、大学の研究セミナーで発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載した1年目の研究の計画は、おおむね予定通り達成できた。したがって、おおむね順調に進展していると記載した。 ただし、分布関数の推定については、そのバイアスの大きさが、当初予想していたものよりも大きいことがわかり、その修正を図ることは難しいことが、研究の成果によって判明した。そのため、分布関数それ自体ではなく、分布を表現する平均や分散などの数量のバイアス修正に重点を置くことにした。これらのバイアスは修正が可能であることが判明した。また、バイアスの修正法は、当初は解析的な方法を考えていたが、ジャックナイフ法による修正法の方がより簡便なことから、ジャックナイフ法によるバイアス修正法を中心に考えていくこととした。 ただし、これらの研究計画からの変更は、研究全体で見たときの進捗状況の遅れにはつながっておらず、当初予定していた研究の目的を、当初とは少し違った方法で達成したということである。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画が、おおむね予定通りに進んだことから、次年度以降の研究の推進方策もおおよそは申請書に記載した計画にもとづいて行う予定である。 2年目の平成26年度の研究では、自己相関などの分布の推定法の開発と、その統計的性質の解明 を行う。そのために1年目において構築した自己共分散の分布の推定方を、複数の自己共分散の同時分布の推定へと拡張する。ただし、申請書の内容に加えて、自己共分散と平均の同時分布の同時分布の推定も考えることとしたい。そのような同時分布を推定することにより、たとえば所得動学においては、所得への負のショックが所得の高い人と低い人とで影響を与える期間の長さの違い、といったことを調べることができる。また2 年目からは、これまでの研究結果を学会などで、積極的に発表していきたい。また、モンテカルロシミュレーションのために作成したプログラムをもとにして、他の研究者が容易に利用可能なプログラムの開発を行い、応用分野の研究者が本研究の成果を容易に使用できるようにする計画である。 3 年目は、予測問題への応用や、分布の相違の検定法の開発 といった、1 年目 2 年目の研究成果の応用範囲を広げる予定である。予測問題での応用では、自己共分散や平均の分布の推定量をもとに、次期の変数の値の線形最良予測値の分布を計算する方法を開発する。また、個人がある因子ごとに分類できるときに、因子ごとに動学構造が異なるかどうかを、検定する手法の開発を行う。例えは、所得の動学構造が、教育によって変化するか、といった問題を調べるために使用可能な手法である。 また 2 年目に引き続き、学会などで積極的に研究成果を発表していき、また容易に利用可能なプログラムの開発を行う予定である。
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