研究概要 |
今年度は大きく分けて3つの研究を行った。1つ目は、モーメント条件が多い場合でもうまく機能する、代替的な過剰識別制約の検定の提案である。モーメント条件が多い場合、標準的な過剰識別制約検定のサイズは著しく歪むことが知られている。パネルデータモデルのGMM推定では多くのモーメント条件が利用可能であるため、標準的な過剰識別制約の検定では正しい検定が行えない。この問題を克服するために、対角過剰識別制約検定という新しい検定方法を提案し、それが従う漸近分布と局所検定力を導いた。 2つ目はパネルVARモデルの新しいGMM推定量の提案である。パネルVARモデルの推定には、通常、レベルの操作変数を用いたArellano-BondタイプのGMM推定量が良く使われるが、本研究ではレベルではなく、過去の平均からの偏差を取った操作変数を使ったGMM推定量を提案した。そして、そのGMM推定量は時間方向とクロスセクション方向のサンプルサイズが同時に大きくなるにつれて、漸近的に効率的になることを示した。また、Pesaran-Shin(1998)の一般化印パルス応答関数の漸近分布も導出した。 3つ目は相互作用固定効果(interactive fixed effects)を持つパネルデータモデルのGMM推定の再検討である。誤差項に相互作用固定効果を持つパネルデータモデルの推定方法としていくつか提案されているが、ここではAhn, Lee and Schmidt(2013,Journal of Econometrics)の方法に焦点を当てた。一般的にGMM推定量が一致性や漸近正規性を持つためには、モーメント条件がglobal identificationを満たされなければならないが、本研究ではAhn, Lee and Schmidt (2013)が提案したモーメント条件はこの仮定を満たしているとは限らないことを示した。
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