金融市場の特性に合ったリスク指標の開発やリスクマネジメントへの応用可能性について、1秒や1分単位といった短い時間間隔で記録されている高頻度データを用いて探究することは、今や国内外の研究者が注目する大きな研究分野として確立されつつある。 最終年度では、現物株式を先物でヘッジする場合のヘッジ比率の推定に、高頻度データから計算されるリスク指標を含む時系列モデルを応用し、その有効性ついて検証を行った。高頻度データの情報を組み込んだショート・ヘッジ戦略は、リーマンショックや東日本大震災直後のように、価格変動が大きく予測が極めて難しかった時期を除けば、長い標本期間を通して良いヘッジパフォーマンスをもたらす可能性が示唆された。価格変動のジャンプによる影響を除外したリスク指標と、そうでないリスク指標のどちらを用いてもヘッジパフォーマンスに差は見られなかった。また、株式収益率と高頻度データから計算されるリスク指標を同時にモデル化した内生モデルの方が、リスク指標を外生的に含めた時系列モデルに比べてパフォーマンスは向上するという結果が得られた。前年度では、オプション価格から逆算されるモデルフリー・インプライド・ボラティリティのジャンプ成分を計測し、このジャンプ成分がボラティリティの代理変数として高頻度データから計算した一部の実現ボラティリティに対する予測精度を向上させる可能性を示した。 研究機関全体を通じて、本研究は高頻度データを用いたボラティリティや共分散推定量ならびに、そうしたリスク指標に含まれるジャンプ成分が、時系列分析の手法を用いて予測やリスクマネジメントに対して有効であるかどうかという検討課題に対して、上述のようないくつかの新しい洞察を示すものである。
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