本研究の最終到達目標は、(1)企業結合が買収企業と被買収企業の生産性に与える影響をデータを用いて分析し、そのメカニズムを解明すること、(2)産業発展における企業結合の役割を考察することであった。先行研究では企業結合と生産性の関係が必ずしも明らかにされておらず、その一因として、生産性の計測に適したデータの未整備が挙げられる。生産性の計測には生産量や生産要素量などの物的データを用いることが適切であるが、多くの先行研究では収入や賃金などの金銭的データをもとに生産性を計測していた。企業結合の分析で金銭的データを用いると、市場構造が変化するため、生産性効果なのか、価格効果なのかを判別することができなくなる。この問題を解決するために、本研究では日本の綿糸紡績産業の歴史的な1次資料をもとにデータベースを作成し、物的データを使用して実証分析を行った。実証分析から得られた知見は、(1)買収前は買収企業と被買収企業で生産性のレベルに差がないが、買収企業の利益率は高い、 (2) 買収後は、被買収企業の生産性と利益率の両方が向上する、(3)被買収企業の生産設備が非効率的に使用されていることである。これらの知見を一般化することは難しいが、産業政策に関して有用な示唆を与えている。企業結合は市場独占度を高める負の効果もあるが、生産性の向上を通じて資源活用の効率化を促す正の効果もある。特に、より効率的に利用できる企業に生産設備を再配分するメカニズムとして企業結合を捉えることができる。生産設備を新規に導入することが難しい状況である発展途上国では、企業結合は生産設備と企業のミスマッチを解消し、産業発展に大きく寄与する可能性がある事を示している。最終年度には研究結果の発表と追加的な分析を行った。本研究の結果をまとめた論文がAmerican Economic Reviewに受諾されたのも研究成果である。
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