豊かな天然資源は、資源国の経済に停滞と成長という相反する結果をもたらしている。このような資源と経済成長の非単調な因果関係を説明するため、従来の「量」的な資源の豊かさの定義に加え、本研究では、資源投資の収益率に影響を及ぼす資源の地理的な「分散度合」を新たな豊かさの指標として用いた。 まず、資源量と資源分散度合に基づく投資決定問題を内生化した理論モデルの構築を行った。具体的には、ビッグ・プッシュモデルを資源セクターと非資源セクター間に応用し、資源セクターからのリターンが資源量と分散度合の両パラメータによって決まる社会的生産関数を構築した。これにより、最適な資本投資が、両パラメータの変化によって収穫逓減型の生産体制(に伴う経済成長の停滞)、もしくは収穫逓増型の生産体制(に伴う経済成長の促進)のいずれに決定するかを説明した。 次に、この理論モデルをベースとした構造推定モデルの構築に加え、空間データに依拠した資源分散指標を新たに構築し、資源量と共に経済成長率への影響を検証した。資源分散指標の構築には、資源埋蔵エリア間の距離を基に試算するクラスター化インデックス・アプローチを採用し、各国の資源分散度合を計測した。計量分析では、世界各国の石油・天然ガス資源とダイヤモンド資源の2資源を事例とした検証を行った。空間データの制約により、推計は資源国の経済成長率を左辺に置いたクロスセクション推計を用いた。その結果、資源量と分散度合は経済成長に対して相反する効果をもたらしうるものの、それらの統計的有意差は推定モデルの仕様や操作変数による影響を受けやすいことが明らかになった。よって、推定モデルの頑健性を改善するための精査が引き続き必要となる。
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