本研究の主題は衰退市場における企業行動の分析である。具体的な研究内容は、1)新製品と旧製品を同時に販売する企業の価格付けに関する理論的分析、2)比較優位による退出効果の理論的分析、3)マイクロデータを利用した衰退市場の実証分析、から構成される。 平成26年度は、研究1)をさらに進めることができた。前年度は新旧製品の違いを消費者の好みの違いのみで表現することに成功したが、当該年度は、そのうえで企業が旧製品を販売する理由が、シュタッケルベルグ流の先導者・追随者構造にありそうであることを示すことができた。これは本研究の独創的な点である、退出過程・衰退過程を市場における均衡現象として分析する視点に適っている。 研究2)に関しては、交付申請書に記述した方法とは違うアプローチから進めることができた。これまで比較優位の源泉として技術の違いを明示的に導入したモデルを構築してきたが、当該年度は比較優位を費用の違いとして扱い、退出効果を分析した。具体的には、日本が比較優位を利用して輸出を急増させた1960年代の米国白黒テレビ市場における企業行動の研究(他研究者との共同研究)を行い、研究成果を報告できた。 研究3)に関しては、実証分析を始めるにあたって必要となるデータの収集に努めた。衰退市場に関連して一般的に関心が高いと思われる問題は、東日本大震災後の東北地方の経済衰退・復興と、新興国との貿易増加による我が国の産業への影響である。そこで、福島第一原子力発電所事故による放射線汚染で、需要が衰退したと考えられる福島県産農作物と、度重なる品質の安全性の問題で需要が衰退した思われる中国産食品に焦点を当て、関連するデータを収集した。これらのデータを基に次年度では、衰退する需要に対して企業(生産・取引企業)がどのような行動を取ったかを分析したい。
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