研究課題/領域番号 |
25780173
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
小森谷 徳純 中央大学, 経済学部, 准教授 (40548088)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 人の移動 / ビジネストラベル / 理論研究 |
研究概要 |
日本の経済連携協定に代表されるように,現在の多くの地域貿易協定は貿易以外の分野として人の移動や投資を含み,「ヒト,モノ,カネ」の流れを円滑にするものである。これに関連して,人の移動の円滑化が貿易・直接投資をどのように変化させるのか,また貿易だけでなく人の移動の円滑化をも考慮することで,経済政策としての地域貿易協定をどのように再評価できるのか,これらを明らかにすることが本研究の目的である。本研究では地域貿易協定における商用目的の人の移動(短期の商用訪問者や企業内転勤者)の円滑化によってもたらされるビジネストラベル費用の低下に着目している。 平成25年度は,商用目的の人の移動の円滑化による直接投資の量的変化,経済厚生への影響について理論分析を行った。そこでは人の移動の円滑化が地域貿易協定の締結,貿易自由化の促進に果たす補助的な役割を示し議論も行った。この結果は貿易以外の幅広い分野を含む経済連携協定の締結を積極的に推進している日本にとっては,今後の新たなる経済連携協定の締結あるいは既存の協定の更新の際に,どの水準までの自由化・協力を協定に含めるかを検討するための1つの学術的サポートとなりうる。 研究実施計画では平成25年度は既存データ,ヒアリング調査(海外2回,国内1回)を行い,理論分析の準備に着手する予定であったが,実際にはヒアリング調査を行うことはできなかった。しかし本研究はヒアリング調査,理論分析,そして実証分析を行うことにより,地域貿易協定による人の移動の円滑化,貿易費用,ビジネストラベル費用の低下の影響を多面的に分析することを特色としているので, 本年度に行った分析はその1つの中心に十分なりうるものである。ただし言うまでもなく,理論分析に対する現実からの裏付けおよび同分析の改善のために,次年度以降に既存データの整理,ヒアリング調査を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画では,平成25年度は「ヒアリング調査を中心として」というテーマを設定していたが,結果的には大きく異なる内容となった。 まず日本の経済連携協定あるいは他の国々の地域貿易協定により,ビジネストラベルにどのような変化が生じたかを既存データ(旅行者統計や出入国管理統計など)を用いて具体的に明らかにすること,ビジネストラベル費用が実際にどの程度低下したのかも検証することを予定していた。これらの作業は開始済みであるが,平成25年度末現在も継続してデータ収集を行っており,分析段階には入っていない。 また平成25年度の主たる作業として,次年度以降の理論分析に向けた実態把握のための海外ヒアリング調査(タイ・インドネシア,スウェーデン・デンマーク)および国内ヒアリング調査(北九州)を計画していた。これらについては残念ながら実施することができなかった。ヒアリング調査を行えなかったことについては,平成26年3月末からの在外研究(デンマーク)に向けた準備も理由の1つであるが,より大きな理由は理論分析を先行させたことにある。 本年度の研究計画からは大幅に遅れているが,次年度以降に行う計画であった理論分析を開始し,既に海外での研究報告も行っている点を考慮し自己評価を行いたい。もちろん次年度以降に理論分析に対する現実からの裏付けおよび同分析の改善のために,残りの既存データの整理を終え,本年度未実施のヒアリング調査を行う必要があることを考えると,本研究の目的全体から「やや遅れている」という自己評価となる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の当初計画では,次年度は今年度に行った既存データによる検証と海外2回,国内1回の現地調査の結果を踏まえて,ビジネストラベル費用とビジネストラベル,ビジネストラベルと貿易・直接投資の関係,人の移動の円滑化を含む地域貿易協定が協定締結国にとって経済厚生の観点で望ましいのかについて理論分析を行う計画であった。 実際には本年度既に理論分析に着手しているため,こちらについては次年度も分析を継続していくという形になる。しかし本年度から残してきた旅行者統計や出入国管理統計などの既存データを用いたビジネストラベルとビジネストラベル費用の低下に関する検証を終えること,そして本年度実行できなかったヒアリング調査を行うことが研究計画実施のための次年度の大きな課題として残っている。 次年度である平成26年度,研究代表者は在外研究のためデンマークに滞在しており,デンマークを離れた研究活動には制限があり,タイ・インドネシアでの海外ヒアリング調査および北九州での国内ヒアリング調査を実施することは基本的には不可能である。しかしデンマーク(およびスウェーデン)におけるヒアリング調査は実行できる可能性が高いので,これについては次年度必ず行うことにする。また既存データの整理やそれを用いた検証は継続することが可能であるので,早急に当初計画に近づけるように作業を終える。 上述のように次年度のヒアリング調査の実施には制約があるため,理論分析が上手く進まないときに行うことを考えていた,貿易データを用いて地域貿易協定によるビジネストラベル費用の低下の効果をグラビティー・モデルで検証する作業,これを行うことも本研究計画を着実に進めていくためには必要と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた理由は次の4点である。まず最大の理由としては,海外ヒアリング調査2回と国内ヒアリング調査1回を実施しなかったことである。これらヒアリング調査の未実施によりヒアリング調査の直接的な費用,およびヒアリング調査を整理するためのアシスタントへの謝金の支出がなく,多額の未使用額が生じることになった。貿易やビジネストラベルに関するデータの整理が自分で行える範囲の作業に留まったため,こちらもアシスタントへの謝金の支出がなかったことが2つ目の理由である。3点目は本研究の関連図書を当初計画の半分程度の金額分しか購入しなかったことである。最後は前倒しで行った理論分析の海外での学会報告および意見交換のための国内研究会出席に関する旅費が,どちらも3月中の出張ということで本年度中に精算できなかったことである。 本研究計画の申請時から平成26年度は在外研究を予定していたため,平成26年度における本研究計画の実施に関する研究費の使用は,図書や物品の購入のみに留めることを予定していた。次年度,在外研究先であるデンマークを離れることには制約があるので,本年度に実施しなかった海外ヒアリング調査と国内ヒアリング調査は在外研究を終えた,平成27年度以降の実施となることは避けられない。従ってヒアリング調査に関する予算は次年度も未使用となる見込みである。既存データの収集と整理については,アシスタントを採用し,当初計画に追いつくことを目指す。また図書に関しては在外研究中でも問題なく購入可能なので,必要な資料を早急に揃える。
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