本研究では地域貿易協定における商用目的の人の移動の円滑化によってもたらされるビジネストラベル費用の低下に着目し,人の移動の円滑化が貿易・直接投資をどのように変化させるのかを明らかにし,経済政策としての地域貿易協定を再評価するのが本研究の目的であった。 まずは人の移動の円滑化による直接投資の量的変化,経済厚生への影響について理論分析を行った。そこでは人の移動の円滑化が地域貿易協定の締結,貿易自由化の促進に果たす補助的な役割を示し議論も行った。 延長期間である平成29年度は,時間的制約から実証研究はあきらめ,これまでに行った理論研究にヒアリング調査のみを加え本研究をまとめていく予定であった。しかしあらためて本研究の対象を再度整理したところ,やはり実証研究は欠かせないという判断に至りそれを進めた。 TPPは「ビジネス関係者の一時的な入国」を扱っており,APEC商用渡航カード(ABTC)・プログラムを強化する努力に対する支持を確認している。そこでまずこれまでのABTCの効果を測ることで,商用目的の人の移動の円滑化が貿易・直接投資をどのように変化させるのか分析可能と判断した。タイの研究者との議論の上,日本と東南アジアを対象としたABTCの効果の実証研究を開始した。 トランプ政権下の米国において,専門技能者のビザ「H1B」の発行プロセスが厳格化されたことにより,米国からカナダに立地先を変更するというケースが起きている。そこで実証研究に長けた研究者とともにH1Bの米国の対内直接投資への影響を分析し始めた。 貴重な延長期間であったが,再度の健康問題から初秋までは満足に研究を行うことがかなわなかった。しかし回復後は不安も一掃され,研究に従事し実証研究の方向性を定めることができた。これにて研究助成期間は終了するが,研究を継続しできるだけ早い時期に成果を報告できるように努める。
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